CASE 04

清水建設 北陸支店新社屋
−格天井と木虫籠−

金沢の伝統を継承する、
最先端の構造・環境計画

未来につなげる新技術の採用金沢の歴史・伝統との融和働き方改革、健康増進に資するオフィスづくりの3つをコンセプトとした弊社の支店建替計画です。今回は、金沢の伝統要素にインスパイアされたトップライト、ルーバー形状における、検討過程の一例をご紹介します。

計画地
: 石川県金沢市
延床面積
: 約4,100㎡
階数
: 地下1階 地上3階
構造
: RC造, S造
段階
: 竣工(2021年)

> 最高水準のゼロ・エネルギー・ビル、北陸支店新社屋

伝統とコンピュテーションの
融合による
光と視環境のデザイン

CASE03で紹介したワンプレートのオフィス空間を支えるため、外周部に沿ってRC壁柱を配置し、格子梁架構としました。これにより、広々とした内部空間を確保しながら、開放的な外壁面より自然光を積極的に取り込みます。さらに、奥行の深くなった中央部に対し、十分な光を届けるトップライトを計画し、明るく快適なワークプレイスを目指しました。
このコンセプトを実現させるため、コンピュテーショナルデザインを用いて、金沢の伝統最先端のシミュレーションを融合させ、新たなオフィス空間の可能性を探りました。

©北嶋俊治

金沢の空に呼応する
格天井

柔らかな自然光を執務空間に供給する屋根架構

用・強・美を兼ね備えた屋根形状の探索

本計画地である金沢市は、年間を通して曇天日が多くみられますが、比較的高い天空輝度のため明るい曇天が特徴です。そこで、建物中央部にトップライトを設けることで、ワンプレートオフィスでありながら金沢の環境特性を生かした「明るく快適なワークプレイス」を目指しました。
屋根を構成する架構計画に「格天井」を想起させる格子梁架構を採用し、均一に降り注ぐ光を演出するとともに大スパンに適した合理的な構造計画としました。

伝統的な日本建築に見られる格天井

パラメトリックな形態生成に
リンクする解析

多数のトップライト形状および屋根架構パターンを検討するため、トップライトの勾配角度や架構スパン等の複数のパラメータをGrasshopperでコントロールし、多量のモデルを迅速に自動生成できるようにしました。Rhinocerosの3D空間上で、室内の印象や表情を確認しながら、生成されたモデルをベースに環境および構造に関する複数の解析を実行することで、インタラクティブな性能検証を行いました。

パラメトリックな形態生成と解析の検討フロー

光を集め、光を配る。

自然光を内部へと導く「集光装置」としての「トップライト」、その光を室内へと拡散させる「配光装置」としての「格子梁」。これらの環境装置で調光した柔らかな光をオフィス空間に供給することを目指しました。
この目標を達成するために、天井面の「明るさ感*1」を確保しつつ、「グレア*2」を抑え、より「省エネ効果」が高いトップライトと格子梁の組み合わせを模索しました。

トップライトと格子梁により得られる効果

絞り込んだ複数パターンのトップライト+
格子梁形状における環境解析結果

「明るさ感」に関しては、人が知覚する明るさや見え方を分析できる「REALAPS*3」とGrasshopperを連携させ、明るさ画像を用いた定量評価を行っています。「グレア」に関しては、昼光による不快グレアを表すDGP*4を指標とし、これを評価に用いました。「省エネ効果」に関しては、昼光利用により照明点灯率がどの程度削減できるかを、年間平均省エネ率として算出しました。

*1 明るさ感:本検討では、人間の目が感じ取る「明るさの感覚」をREALAPS*3を用いて、輝度対比、順応を考慮した定量的な「明るさ尺度値(NB値)」で評価しました。明るさ尺度は「とても暗い」から「とても明るい」までの1から13の13段階で表します。
*2 グレア:視野内の輝度分布の偏りや極端な輝度対比によって感じられる眩しさ。
*3 REALAPS:株式会社ビジュアル・テクノロジー研究所(VTL)によるアピアランス設計支援ツール。Grasshopperとの連携機能は当社とVTLとの共同開発。
*4 DGP:Daylight Glare Probability(昼光グレア確率)の略称で、昼光による不快グレアを確率的に評価する方法。

大空間を実現する格子梁架構

環境シミュレーションにより多量の候補の中から絞り込まれた、自然光で室内の明るさを確保した複数の屋根架構パターンについて、構造解析を実施しました。構造解析結果である鉛直変形量や架構重量などを考慮しながら屋根形状を比較することで、大空間を実現するのに、より効率の良い設計案を探索していきました。

絞り込んだ複数パターンの屋根架構における構造解析結果

歴史の街並みをつなぐ
木虫籠ファサード

執務空間から木虫籠ルーバー越しに景色を眺める

木虫籠のポテンシャル

金沢の歴史的な街並みを形成する代表的な構成要素として「木虫籠(キムスコ)」と呼ばれる割付の細かい格子を挙げることができます。この茶屋街のシンボルとも言える木虫籠の最大の特徴は、外側の見付面が内側より広くなるような等脚台形をなす断面形状にあります。室内への直射光を和らげる縦格子本来の機能に加え、この断面形状により「外から内は見えにくいが、内から外は見やすくなる」という視覚的効果を得ることができます。

木虫籠の外観

金沢・茶屋街と木虫籠

木虫籠のプロポーションにより得られる効果

金沢・茶屋街と木虫籠

木虫籠のプロポーションにより得られる効果

伝統を受け継ぐファサードの
複合的最適化

本計画では、建物東西面ファサードに設ける縦ルーバーにおいて、この優れた機能性を有する木虫籠プロポーションを踏襲するとともに、更なる視覚的・環境的パフォーマンス向上が可能となる最適断面形状を目指しました。
まず初めに、ルーバーの奥行や幅、形状、ルーバー間の隙間の大きさ等をパラメータとする「見通し率*5」、「日射遮蔽効果」、「明るさ感」の3つの解析を実施しました。

伝統的な木虫籠のプロポーション例(左)と
その特徴を踏襲するとともに各部位をパラメータとした
縦ルーバーのプロポーション(右)

「見通し率」に関しては、既往研究に基づき、室内からルーバー越しに見た屋外の景色がどの程度見通せるかの評価を、「日射遮蔽効果」に関しては、夏季の積算日射量を対象に評価を行いました。「明るさ感」に関しては、格天井での取り組みと同様に、明るさ画像を用いた定量評価を行っています。

ルーバー最適化の検討過程(上)と積算日射量(左)、
見通し率(中央)、明るさ感(右)の各種シミュレーション

このような視・熱・光に関する個々の環境評価をShimz Explorer*6を介して統合し、膨⼤な案の可能性の中から、各評価値をバランスよく満たす、ハイパフォーマンスなルーバー形状を選び出しました。

Shimz Explorerを用いた解の絞り込みの様子

*5 見通し率:森岡崇氏の「格子による見通しの程度と開口率の関係に関する基礎研究(日本建築学会大会学術講演梗概集<関東>2011.8)」に基づく、格子越しに見た室内外の景色がどの程度見通せるかを表したもの。
*6 Shimz Explorer:Brute Force Methodによる最適解の絞り込み*7ツール。(開発協力:Thornton Tomasetti / Core Studio、アルゴリズムデザインラボ)
*7 絞り込み:パラメトリックに生成した膨大な案の可能性の中から、複数の目標値を設定して解の絞り込みを行う手法。

最適形状の表情を確認

候補となる数案のルーバー形状を3Dプリンターで出力し、コンピュテーショナルデザインで導き出された複雑な形状がリアルな実環境の中でどのような表情を見せるのか確認を行いました。

3Dプリンターで複雑な形状を出力

3Dプリンター模型による見え方の検証

意匠設計

岡崎 真也

構造設計

穐山 貴志


コンピュテーショナル
デザイン

黒木 光博

コンピュテーショナル
デザイン

太田 望

コンピュテーショナル
デザイン

牧 真太朗

金沢の歴史をつなぐ外皮デザインをテーマに、最先端の解析技術を駆使し、格天井・木虫籠という古くからの伝統様式に新たな価値を付加することに挑戦しました。光環境や構造という側面からデジタルで定量的な評価を行い、最適形状の探索をすることで、伝統的なプロポーションや機能に新たな息吹が吹き込まれ、現代に相応しい形態へと昇華出来たと実感しています。

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