CASE 05

豊洲六丁目4ー2・3街区プロジェクト
−オフィス棟−

持続する建築
−ニーズの変化に共存していくオフィス−

進化し続ける時代に、建築や空間が求められる場や性能は刻々と変化していきます。その変化に許容⼒をもって応じるオフィス建築です。「⼈と環境にやさしい建築」を特徴づけるアトリウム空間のデジタルデザインをご紹介します。

計画地
: 東京都江東区豊洲六丁目4番の一部
延床面積
: 約88,000㎡(オフィス棟)
階数
: 地上12階
構造
: S造(CFT・中間階免震)
段階
: 竣工(2021年)

> 日本初の都市型道の駅「豊洲MiCHiの駅」
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コンピュテーショナルデザインで
魅力的なコラボレーション・
アトリウムにアプローチ

建物中央に設けたセンターアトリウムが、ビル全体のコミュニケーション・コラボレーションのシンボルとなる計画を目指しました。そこで、 コンピュテーショナルデザインを用いて、テナント間のコラボレーションを促し、明るい自然光を屋内へと導く、アクティビティあふれるアトリウムの可能性を探りました。

視線の抜ける
コア配置

建物中央部の平面計画

視線が抜ける分散アイランドコア

ワークプレイスの端々まで視線が抜ける配置としています。オフィスのどこから見てもアトリウムを介して視認性の高いコミュニケーションを誘発する空間を目指しました。

大規模平面のオフィスに分散アイランドコアを配置

コア配置の「型」の検討

ビッグプレートオフィスにおいて典型的なセンターコア型と分散コア型について、テナント間の視線透過率を比較しました。
中央のアトリウムを介した視線の抜けを比較すると、センターコア型は全体の視線透過率が24%に対し、分散型は54%と視線の抜けが大きいことが分かりました。そこでコミュニケーション型のオフィスとして、分散型を採用しました。

センターコア型(左)と分散コア型(右)の
視線の抜け率をグラフ化し、比較

ワークプレイスの採光を考慮した
コア配置の検討

分散型コアの昼光による照度をシミュレーションしたところ、昼光を利用できるワークプレイスにコアが配置されました。
そこで外周部の1スパンはコアを寄せないことで昼光を採り入れ、照明エネルギーを削減し、眺望や快適性も得られました。

コアの配置による照度の比較(冬至の正午)

視線の抜けを考慮したコア配置の検討

当初の分散コア型では、アトリウムを介して向かいのテナントが全く見えないとなる部分が見受けられました。そこでコアの位置をパラメータに10,000通り以上の案を作成し、検討しました。それらの案の中から、Shimz Explorer*1を用いて、どこから見ても互いのテナントへの視線が抜けるコア配置を選び出しました。

*1 Shimz Explorer:Brute Force Methodによる最適解の絞り込み*2ツール。(開発協力:Thornton Tomasetti / Core Studio、アルゴリズムデザインラボ)
*2 絞り込み:パラメトリックに生成した膨大な案の可能性の中から、複数の目標値を設定して解の絞り込みを行う手法。

向かいのテナントが全く見えないとなる部分(左)と
コアの位置検討によって改善した案(右)

Shimz Explorerを用いて、視線が抜けるコア配置を絞り込み

自然光を導く
アトリウム

アトリウム上部に設けたトップライト

光あふれるアトリウムの実現

このオフィスのコンセプトのひとつである「WELLNESS 外部の環境を取り込んで、光や風のリズムを感じて、健康的に働く場所をつくる」の実現の鍵となるのが、プラン中央に設けたアトリウムです。
このアトリウムに自然光を導き、コミュニケーション、コラボレーション、リラックスできる空間をつくるため、コンピュテーショナルデザインでアプローチしました。

最下層のエントランス

目標は、アトリウムの最下階まで自然光を届けることですが、直射光を屋内に取り入れると、空調負荷が大きくなってしまいます。
そこで、熱負荷が大きい直射光はカットして、間接光と反射光をできるだけ多く取り込むベストな方法を、Grasshopperで見つけ出すことにしました。

詳細化するパラメーターで
形状を絞り込む

検討当初、1枚の曲面で直射光をカットして、内部照度がMAXとなるトップライト形状を目指しましたが、1枚の面では供給できる内部照度に限界があることに気づきました。
そこで、内部照度を高めるために、大まかなものから、開口の数・各開口の高さ・開口の稜線というように徐々に詳細なパラメーターを設定して、形状を絞っていきました。

直射光を遮る1枚の屋根面生成(左)と
その屋根による内部照度シミュレーション(右)

内部照度シミュレーションに基づく屋根枚数のスタディ

シミュレーション結果から仮定した、4枚の鋸屋根最高部の高さをパラメーターとして設定し、それぞれの開口高さを変化させ、アトリウム最下部での照度を解析により算出。その解析結果に対し、遺伝的アルゴリズム*3による600通り以上の組み合わせの最適化を行い、最も多くの光をアトリウム内部に導くトップライトの開口高さを見つけ出しました。

*3 遺伝的アルゴリズム:生物の進化を模倣した最適化手法の1つ。本計画ではGrasshopperに標準搭載されている最適化コンポーネント・Galapagosを用いて解析を行いました。

トップライトの開口高さとパラメーターの関係

内部照度最適化の検討過程

続いて、アトリウムのより下の方まで反射光を届けるトップライトの稜線形状を探索しました。開口高さを固定して、各面の稜線形状をパラメータとし、反射回数ごとに色分けした反射光の行き先を可視化するツールで、アトリウムに降り注ぐ光の軌跡を確認しました。その結果をもとに、再び最適化シミュレーションを実行し、約40万通りの中から理想のトップライト形状を導き出しました。

反射光シミュレーションの検討過程

トップライトの最適形状

反射光シミュレーションの検討過程

トップライトの最適形状

開口の高さ・稜線を調整する前と比べると、屋根から約60mほど下のレベルにあるエントランス床面で、年間平均照度が約2倍程度明るくなるという結果を出すことがでました。

トップライト形状の違いによるアトリウム内照度の比較

デジタルデータを各々共有し
トップライトをつくりこみ

吹抜部の明るさが最大となるように決定した、自由曲面のサーフェスデータから部材量や接合部数が少なくなる合理的なトラス配置をGrasshopperにより検証し、構造体を決定しました。その後、仕上工事と3Dデータを共有し、納まり打合せ、図面化、製作図作成等、意匠・構造・現場・メーカー*4が一体となり協働を行っています。

*4 トラスの検証協力:(株)巴コーポレーション、仕上げ材の検証協力:三晃金属工業(株)

デジタルデータの共有(設計・現場・メーカー)

詳細3Dモデルによるトップライトのストラクチャー施工

トップライト屋根のモックアップ

詳細3Dモデルによるトップライトのストラクチャー施工

トップライト屋根のモックアップ

複雑な形状のパネル割

アトリウムの側面のパネルは、トップライトからの光を下部に反射しながら導いていく「クレバス*5」のような形状を目指しました。そこでパネルは多面体の形状とし、稜線の高さや出幅をRhino+Grasshopperで調整しながら、デザインを決定しました。
データは施工者へ引き継ぎ、製作メーカーにて個別詳細図へ連動しています。

*5 氷河等に形成される割れ目

Grasshopperでパネル形状を調整

模型によるデザイン検討

Grasshopperでパネル形状を調整

模型によるデザイン検討

トップライトからの光を導く陰影が際立つパネル形状

意匠設計

今井 宏

構造設計

久保山 寛之

意匠設計

加登 剛司


意匠設計

谷津 健志

意匠設計

竹内 萌

意匠設計

垣中 智博

構造設計

梨本 優也

コンピュテーショナルデザインを使うことで、一見不合理とも捉えかねない不均一で複雑なデザインを、説得力を持って提案できました。プログラムを組む際には、「何が課題なのか?何を優先するのか?」と掘り下げてパラメータ化する過程に苦労しました。ビジュアルプログラミングによって検討の過程が残るので、他分野の方と共有したりと、多数の人との協働にも役立ったと実感しています。

(上段左から)

意匠設計 今井 宏

構造設計 久保山 寛之

意匠設計 加登 剛司

(下段左から)

意匠設計 谷津 健志

意匠設計 竹内 萌

意匠設計 垣中 智博

構造設計 梨本 優也

コンピュテーショナルデザインを使うことで、一見不合理とも捉えかねない不均一で複雑なデザインを、説得力を持って提案できました。プログラムを組む際には、「何が課題なのか?何を優先するのか?」と掘り下げてパラメータ化する過程に苦労しました。ビジュアルプログラミングによって検討の過程が残るので、他分野の方と共有したりと、多数の人との協働にも役立ったと実感しています。

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