2011年4月21日
Vol.2 今こそ、木の価値を社会に改めて伝えるとき
馬場 璋造さん(株式会社建築情報システム研究所 代表取締役)
さまざまな建設・再開発計画などにプロデューサーやアドバイザーとして携わる建築評論家の馬場璋造さん。木に関する造詣が大変深く、木材と建築を取り巻く現状を尋ねると「今、木材には追い風が吹いています」と答えが…。その言葉の意味は、これからの木材利用の可能性に大きくつながるものでした。
価格が下がり、規制も緩和され、加工技術も向上
そもそも、人は木に対して安らぎを感じますし、潜在的なニーズは非常に高いんです。また、木を使うことは、森林を維持・整備し、環境を保全することにつながります。しかし、大学の建築学科では木の使い方について教えません。さらに、昭和40年頃から木材の価格が高くなったので、木を使いたくても使えない状況が続いてきたわけです。それが、ここ10年ほどで、国産木材の値段が半額以下に下がってきました。また、5センチ以上厚くすれば耐火被覆材として使えるなど、木材に対する防火規制が大幅に緩和されたり、地球環境に優しい材料として活用ニーズが高まるなど、社会的な追い風が吹いています。さらに技術面でも、不燃処理技術の進化はもちろん、木の面格子を構造体として使うことで耐震性を向上させるなど、木材の新たな使い方がどんどん広がってきています。
ムク材の弱点が、実は木の大いなる魅力
フローリングやドアなどに使用される単板(突き板ともいう。天然木などの木材を薄くスライスしたもの)は、少ない材料で木目の美しさを表現でき、ムク材の弱点として捉えられている“節”や“反り”もありません。しかし、そうしたムク材が持つ建材としての矛盾や木目の変化の連続性こそが、木の本来の魅力ではないでしょうか。また、ムク材は使い方次第で、その魅力がぐんと増します。例えば応接室をつくる場合、室内全面にムク材を用いるのではなく、ある一面だけに使う。そうすることでムク材の特性が際立ち、少ないムク材でその空間の気品をワンランク上げる、といった効果をもたらすことができるのではと思います。
「安ければいい」から「良いものがいい」へ
このところ、世の中がデフレ傾向にあり、あらゆる業界で値下げ競争が続いています。しかし、「安ければいい」という価値観からは、本当の文化は生まれません。幸いなことに、少しずつ「良いものであれば、多少高くても買う」という社会状況になりつつありますので、本物の木の良さも再認識されるようになっていくと思います。その昔、千利休は茶道具などについて、他の人から見たら何でもないものでも、その価値を見極め、“良いもの”として用い、世へ広めていったそうです。ですから、木の場合も、建築に関わる側がしっかりと木材を見立て、使い、“良いものづくり”をして、社会に木の価値を改めて伝えていく必要があります。それが、日本の誇るべき木の文化を守り、今後も発展させていく一つの手だてなのだと思います。
プロフィール
馬場璋造さん
株式会社建築情報システム研究所 代表取締役
1935年、埼玉県川越市生まれ。1957年、早稲田大学第一理工学部建築学科卒。
1979年~1989年、清水建設株式会社 建築設計本部勤務(この間1985-86年にはシンガポールへ留学。チャダ,シィエンビエナアソシエイツ勤務)。1989~2005年、株式会社フィールドフォー・デザインオフィス 取締役デザイン部長。2006年より現職。
1959年、早稲田大学第一政経学部経済学科卒。同年、株式会社新建築社入社。1964年、「新建築」編集長。1990年、株式会社建築情報システム研究所を設立し、現職。
馬場さん、清水建設
東京木工場を見学
まさに宝の山、これからの木工場に期待!
今回のインタビューと同時に、馬場さんに清水建設 東京木工場を見学してもらいました。見学後、馬場さんは「まさに宝の山ですね」という感嘆の言葉とともに、これからの東京木工場への期待を語ってくれました。「これらを建築家に見せたら、ぜひ使ってみたい、と多くの人が目の色を変えるでしょう。ですから、例えば、工場や事務所そのものを木造にして、プレゼンテーションに利用してみてはどうでしょうか。また、ムク材の弱点として捉えられている“節“や“反り”を逆手にとって活かした、味わいあるデザインや製品を東京木工場から提案し、木の活用範囲を広げていってほしいですね」。
見学中、馬場さんは、木工職人の動きや機械設備、木材ストックなどに終始熱い視線を注いでいました
取材を終えて
木材について、ときに熱く、ときに優しい眼差しで語る馬場さん。その姿からは、木材のことを大切に思う気持ちが伝わってきました。「実は実家が材木屋でしてね、子どもの頃から丸太の上で遊んだものです」、それが木と馬場さんの馴れ初め。「だから、木にはとても強い親近感を持ってるんですよ」、懐かしそうにそう語る馬場さんの笑顔に、また一つ木の魅力を見つけた気がしました。