人と技術のいい関係2022.10.31

総合力を支える、調整力。

現場を計画通りに進めるのは難しい。天候や道路状況など、つねに周囲の環境に左右され、グローバル調達が進む中、世界情勢にも影響を受ける。複数の街区が同時進行する大規模プロジェクトなら尚更である。そこで活躍するのが、施工計画の調整を専門に行うチームだ。施工調整室とA街区 計画グループの工事長にそれぞれ話を聞いた。

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―施工調整室の役割について教えてください。

成岡:A街区、B-1街区、B-2街区、C街区、土木工区の施工が同時進行しています。それぞれ施工計画が異なるため、街区間の計画を調整し、全体最適を図るのが我々の仕事です。入社して30年経ちますが、このような組織を経験するのは今回が初めてです。

―どのような経緯で設置されたのでしょうか?

成岡:事業の中心となって進めている森ビルさんが六本木ヒルズの再開発プロジェクトで同様の組織をつくり、うまく機能したそうで、今回のプロジェクトでも施工調整室の設置がA街区の発注条件となっていました。A街区を担当する清水建設で組成し、街区横断で計画の調整を行っています。

―実際、どのような調整を行いましたか?

成岡:最盛期には1日に約1,000台もの車両が出入りする計画のため、動線の確保が重要です。敷地は最大で18mにもなる高低差があるため、車両が通れるように各街区で仮設の構台をつくっているのですが、それぞれの街区で工事の進捗にあわせ構台を解体するタイミングが異なります。工事車両の動線を確保するために、解体時期の見直しや場合によっては施工計画を変更してもらうような調整を行いました。

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2020年12月頃

―具体的にはどのような提案を行ったのですか?

成岡:ある街区は、山留め工事を行う際に、切梁を設置する作業スペースを確保するため、構台を解体する計画でした。しかしその計画だと車両の動線を大きく変更する必要があるので、切梁が不要な代替工法を検討しました。その結果、山留めに支障を来さずに代替工法を提案でき、構台を残すことができました。
※山留め:地盤の掘削時に、周辺地盤が崩れないよう設置する土止め壁
※切梁:土止め壁の変形を抑えるための支持部材

―A街区の計画グループはどのような役割を
担っているのですか?

正久:工事着手時に作成した総合的な施工計画を、実施レベルにブレイクダウンするのが本来の役割です。施工調整室が街区横断で調整を行うのに対し、我々はA街区内の調整業務を行っています。A街区だけでも9つの現業グループが存在し、それぞれに施工計画や工程が存在します。様々な影響により、刻々と工程が変化する中で、各施工計画を横断的に俯瞰し、事前調整として最適解を模索する役割を担っています。

―たとえば、どのような計画を変更しましたか?

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2021年11月頃

正久:地下の躯体工事はコンクリート打設する順番が決められていましたが、一部で遅れが生じた際には、順番を変えることにより、メインの工事に支障が出ないように調整しました。また、地上の鉄骨建方は1階の床が完成してから開始する予定でしたが、1階の床の完成を待たずに鉄骨建方を優先して進められるように計画を見直しました。A街区として何がベストかを考えて変更しているわけです。

岡田:A街区の地下には街区全体のエネルギーセンターが入っているのですが、その主要な設備機器の搬入予定日は街区全体に影響を及ぼすので厳守しなければなりません。地下工事に必要な仮設構台の杭が機器搬入に支障があることがわかり、A街区内の地下工事の工程を見直しました。構台を解体してしまうと搬入経路がなくなってしまうため、構台を躯体で受けなおす計画に変更し、構台を解体せずに設備機器を搬入することができました。また、低層棟の揚重機についてはコストや工程などを詳細検討のうえ、移動式ジブクレーンなどの最適な機種へアレンジしました。

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地下工事の様子

―調整する上で大切にされていることは
どんなことですか?

成岡:それぞれの街区で施工者が異なるため、シミズだけが良くてもダメだし、全体がきちんと仕事ができるように平等に進めていくことを念頭に置いています。無理に変更をお願いするのではなく、お互いにメリットがある方法を模索するようにしています。

岡田:そうですね。他街区に関連する計画変更については、お互いにメリットがあってコストがかからないものを選択していくことを心がけています。

正久:我々計画グループは、9つの現業グループがあるなかで、「A街区ベスト」を目指すと同時に「虎麻ベスト」を見据えて仕事をしています。つまり、全体最適の視点を持ち、プロジェクトがスムーズに進むように常々考えています。

―コロナ禍でさまざまな影響を受けていると
伺いました。

正久:外国人労働者が集まりにくいという問題や、海外の都市のロックダウンなどで海外調達する部材の到着が遅れているといった問題があります。こうした潜在的なリスクをいかに素早くとらえ、工程が遅れないようにキャッチアップしていけるかが重要です。その対策のひとつに「シミズ・スマート・ロジ」があります。茨城県内のロジスティックセンターを運営しており、使用する部材を早い段階からつくり始めてストックしておくことで、ジャストインタイムで現場に搬入することができます。逆に工程が遅れて現場に搬入できない事態が発生しても、センターがバッファー役を果たしてくれるので、メーカーなどに迷惑が及ぶことはありません。

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茨城県内のロジスティックセンター
「シミズ・スマート・ロジ」

―本プロジェクトを通じて学んだことを
教えてください。

岡田:A街区の山留めと仮設構台の計画をメインで担当してきたのですが、40m近い大深度地下で複数の工法を組み合わせた難易度の高い工事を専門業者やシミズの技術部、技術研究所との検討・協議を経て実施計画をとりまとめたことは良い経験になりました。自分自身の地下工事のスキルアップはもちろんですが、社内外の各分野のスペシャリストとの調整の重要性を実感しました。

正久:今まで何度も現場が止まってしまうような事態に直面しましたが、その度に社内の技術系スタッフに相談することで、何らかの解決策を見出すことができました。そこで感じたのは、シミズが持つキャパシティ、総合力の高さです。ただこの貴重な経験を我々の知識で終わらせるのではもったいないので、定期的にオンライン勉強会を開くことにしています。建設所内で水平展開するだけではなく、そのデータが技術の伝承として役立っていくことも意識して開催しています。

成岡:施工調整室という立場で他社ゼネコンさんと仕事ができたことは非常に勉強になりました。それぞれ仕事の進め方が異なり、特徴があるからです。計画時はB-2街区の地下を担当し、着工時に施工調整室に入ったのですが、自分の計画を俯瞰することで、良い面も悪い面も見えてきて、成長につながったと思います。

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―施工調整の山場は越えましたか?

成岡:今後、街区内に約700mの区道を整備していくのですが、電気、電話、水道、ガスなどのインフラ工事を行いながら、同時に建物と道路を完成させていくという大きな山場があります。すべての街区、多くの関係者と調整が必要になってくるので、これからが本番という意気込みでいます。

プロジェクトが大規模化するほど、工事の調整役が担う責任は大きくなる。首都圏ではまだまだこうした調整業務が欠かせない大規模建設プロジェクトが続く。調整業務を通じて、プロジェクトを上手に運営するシミズの現場マン・ウーマンが多く育ち、シミズの総合力がさらに高まっていくことだろう。

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Profile

成岡 敦

虎ノ門・麻布台プロジェクト

施工調整室 工事長

入社年:1991年

主な業務:街区間の計画調整

Profile

正久 裕之

虎ノ門・麻布台プロジェクト

A街区 工事長

入社年:2000年

主な業務:A街区の計画調整

Profile

岡田 大作

虎ノ門・麻布台プロジェクト

A街区 工事長

入社年:1994年

主な業務:A街区の計画調整