人と技術のいい関係2022.06.22

日本の超高層RC造の
つくり方を
変える。

左)
虎ノ門・麻布台プロジェクト
B-2街区

江藤 桂

中)
虎ノ門・麻布台プロジェクト
B-2街区工事長

中村 聡

右)
設計本部 構造設計部

吉末 理紗

海外で普及しているコンクリート打設装置「ディストリビュータ」。日本の建設現場における生産性の一層の向上を実現すべく、日本の建物の構造や施工計画に適した機械を追求した国産初の大型ディストリビュータがB-2街区で始動。この大型ディストリビュータが拓く未来についてB-2街区で現場を指揮する2人と、構造設計の若手に話を聞いた。

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―ディストリビュータとはどのような装置でしょうか?

中村:コンクリートを「分配する」という意味から、ディストリビュータと呼ばれています。地上のポンプ車からコンクリートが圧送される縦配管と直結し、折り畳み式のブームを打設場所まで伸ばしてコンクリートを効率よく分配・打設します。通常、縦配管に横引き配管を連結し、打設場所までコンクリートを圧送しますが、横引き配管の敷設が不要になるため、コンクリート打設の生産性が向上します。

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江藤:鉄筋が組まれた、足場が悪い床スラブ上で行う配管作業や、重たいホースを担ぎながらコンクリートを打設する従来の方法は、作業員にとって苦渋作業であり、効率的とは言えません。この問題を解決したのがディストリビュータです。しかし国内では、ディストリビュータの導入が進んでいません。日本は海外に比べて床スラブが薄いことが理由の一つです。海外製は重量が重く、床で支持することが難しいため、日本の建設現場に適したディストリビュータが求められていました。

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従来の打設

―そこで新たに開発することになったわけですね。

中村:はい。日本の建物は梁と柱で構成されるラーメン構造が主流なので、ディストリビュータを床で支持するのではなく、梁で支持する仕組みにしました。従来は専用開口の構築や、作業後は穴埋め作業が必要でしたが、建物の非常用エレベータシャフトに設置することにより、専用の開口を不要としました。また、エレベータシャフト内での展開に適したアウトリガーの開発により、ディストリビュータの移設がスムーズになりました。

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江藤:海外のディストリビュータは重量が重く小型のクレーンでは移設できません。
上昇のためのクライミング装置が付いていますが、取り扱いが複雑なので、移設作業に手間が掛かっていました。そこでクライミング装置を廃止するとともに、鋼材使用量を減らし軽量化しても必要な強度を確保できる高張力鋼を装置部材として採用することにより、汎用的なクレーンでの吊り上げが可能な重量(16t未満)を実現し、さまざまな現場で使えるようにしました。
上層階に移設する際は、ELVシャフト内で支柱を支えるアウトリガーを閉じてクレーンで吊り上げ、上層階でふたたび開いて設置します。鳶工のみで短時間で移設できます。ブームの水平長さは最長29mで、B-2街区タワーの隅々まで分配できる大型サイズです。

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吉末:海外製品との設計の違いは、タワークレーンの構造規格を元に日本特有の地震や台風に耐えられる仕様を開発・採用していることです。安心・安全に使えることは現場にとって大きなメリットです。また、海外製品と異なり、故障時に国内で迅速に修理できることもポイントだと思います。

―開発の際、どのような難しさがありましたか?

中村:生産技術本部が主体となり、国内No.1ポンプ車メーカーの極東開発工業さんと共同開発しました。当時はコロナの影響により、対面での打ち合わせや現物確認ができなかったのが難しかった点です。早い段階からリモート会議の体制を整え、兵庫県にある工場とライブ映像でつなぎ、試作機の負荷試験や製作物の検収を行うなど、全てリモートで開発を進めました。

江藤:コンクリート打設の機械化で日本の超高層RC造のつくり方を変えていくという共通の目標があったからこそ、開発を成功させることができました。このディストリビュータには、極東開発工業さんのメーカーとしてのノウハウと、シミズの現場運営のノウハウが融合しています。

―稼働を始めて数ヶ月が経過しましたが、現場の声はいかがですか?

江藤:ブームを伸ばすだけで楽にコンクリートを打設できるので、重労働がなくなり現場作業員から喜ばれています。これまでも低層階ではポンプ車のブームを伸ばして打設してきたので、作業する上での戸惑いもなかったようです。

中村:やはり横引き配管がなくなったことが大きいですね。柱、梁、床のコンクリート強度が違うので、柱が終わったら梁、その次に床と、コンクリート強度の高い順番に打設しなければいけないため、1フロアで3回配管し直すことになります。この配管の敷設・撤去作業が不要になるため、1日で打設できるコンクリート量が約120m3から約200m3に増加。これにより1フロアを6工区に分けて打設していたところを4工区に削減することができました。

江藤:打設が終わらずに残業したり、準備のために早出したりすることがなくなりました。打設が早く終わるので、余った時間を翌日の準備に活用できています。重たい配管を運んでつまずいて怪我をする心配もないですし、安全面でも優れています。監督する立場からしても現場での拘束時間が減り、他の業務に当てることができるので、助かっています。

中村:ディストリビュータの導入によってコンクリート打設時間を約800時間削減できる見込みです。今後はプレキャスト化と組み合わせ、1フロア4日サイクルで組み上げていく予定で、約2,000人分の省人化が期待されています。

―それはものすごい効果ですね。

中村:はい。横引き配管はもちろん、6工区から4工区に打設回数が減ることでその分打ち継ぎの型枠が不要となり、打設後の残コンも削減できます。縦配管などに残ったコンクリートは産業廃棄物として処理されますが、これが減るのは環境面でもメリットがあります。ポンプ車の稼働時間も短縮できるため、軽油の消費量も抑えられます。

―構造設計においてはどのようなメリットがありますか?

吉末:超高層RC造の施工面の制約を考慮せずに済むため、設計の自由度が高まると思います。コンクリート強度の打ち分けが容易になった分、柱・梁・床のコンクリート強度を細かく変更するなど、選択肢が拡がります。今後は超高層RC造以外でもどんどん活用されていくと思います。

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―最後に本プロジェクトへの想いを聞かせてください。

吉末:私が社会人1年目に関わったビルがこうやって形になるのは感慨深いです。大型ディストリビュータのコンクリート打設やPCa部材の継ぎ手を現場で実際に見たのは初めてですし、本当に勉強になっています。この貴重な経験を、設計にフィードバックしていきたいです。

江藤:これまで地方のランドマークとなるようなプロジェクトを経験してきましたが、これだけ大規模な建物をつくるのは初めてです。地下40mの基礎から関わってきましたが日を追うごとにペースが上がり、1年半でここまでの高さになるのを間近で見て、職人さんたちの凄さやシミズの技術力を感じています。担当工事に留まらず様々なことを学んで、次の現場に生かしていきたいです。

中村:入社して25年目になり、150m超級の高層マンションも経験しましたが、これまでの最短は1フロア5日サイクル。今回は群を抜く約240mでありながら、ディストリビュータやPCa部材を活用することで、4日サイクルの実現が目標です。4日サイクルがこれからのシミズのスタンダードになるように、ここでチャレンジを積み重ねていきたいですね。

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※撮影時のみマスクを外してます

ここで開発した大型ディストリビュータは、極東開発工業から販売を開始している。国内の大型現場に水平展開されることで、建設現場の生産性革命に大きく貢献していくだろう。その第一歩が踏み出された。

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Profile

中村 聡

虎ノ門・麻布台プロジェクト B-2街区

工事長

入社年:1998年

主な業務:施工計画・施工管理

Profile

江藤 桂

虎ノ門・麻布台プロジェクト B-2街区

入社年:2017年

主な業務:施工計画・施工管理

Profile

吉末 理紗

設計本部 構造設計部

入社年:2018年

主な業務:構造設計