人と技術のいい関係2021.11.10

チャレンジが
エンジニアの喜び

虎ノ門・麻布台プロジェクト
B-2街区建設所長

飯塚 実

Profile

建設業の未来のための
チャレンジ

東京タワーとほぼ同じ高さのタワーが建つA街区と同じくらい、B-2街区も施工難易度が高い。B-2街区建設所長を務める飯塚は、その理由のひとつに「敷地条件」を挙げる。南側にA街区、東側にC街区、西側にB-1街区、そして北側に住居が面するB-2街区は、唯一搬入ゲートのない街区だ。他街区を通らなければ重機や建築資材を搬入できない。
「搬入の際は各街区との調整が必要です。また重機は各街区の通路に面して設置する必要があり、これだけ大きな敷地ですが、B-2街区は狭い市街地と変わらない敷地条件と言えます」(飯塚)。
そんな厳しい敷地条件で建てるのは、地上約240m、地下約40mの鉄筋コンクリート造(RC造)のタワー。重量の重いRC造でこれだけの高さを建てるのは、難しくないわけがない。RC造は鉄筋とコンクリートの双方の特長を併せ持つ、揺れに強い構造で、B-2街区タワーの用途である住居に最適。あとはそれをいかにして高くするか。
「私たちの仕事は、太古の昔から先人たちが積み上げてきた技術でできています。でもその歩みを止めてはいけない。建設業の未来のために新しいものを開発して、後世に残していくことが、いまを生きている私たちに課された使命です。そんな想いでチャレンジしているプロジェクトです」と飯塚。

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新たな技術・工法を採用

この難工事の実現に向けて、シミズは受注前からさまざまな技術開発に着手。そのひとつが超高層化に耐え得る超高強度コンクリートの開発だ。超高強度コンクリートに靱性(じんせい)を付与するために鋼繊維を混ぜ、現場で施工しやすいよう流動性を確保できる適切な配合計画を確立。その上で構造性能や耐火性能を検証した。さらに、地上から高層階に圧送したコンクリートを効率よく打設できるように、日本の建物の構造や施工計画に最適なコンクリート打設装置(ディストリビュータ)を新規に開発した。従来、コンクリートを所定の位置に打設するために配管をつなげたり、位置を変えたりするのに多くの手間がかかっていたのだが、この作業を機械化することで品質と効率の両立を図った。
「A街区に負けず劣らずきれいな建物をつくりたい。安心してお使いいただけるように、その品質にはこだわっていきたい」と飯塚。
もうひとつの大きな課題が納期だ。工期に間に合わせるのは至難の業であり、新たな工法を積極的に採用した。代表例が2段打ち工法。地下工事と地上工事を同時施工するもので、鉄骨を組み上げ2階先行床を打設したあと、地上と地下を同時に打設していく。
「2段打ちなので、一度に2層分の建築資材を搬入しなければいけません。しかし敷地条件からそれを現場でやることは難しい。そこで柱・梁の一部をプレキャスト化。外部の工場で事前に製造し、現場に運び込んで組み立てる方式としました」。

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デジタルが支える品質

B-2街区は最盛期で2,000人が稼働する予定だ。「本来、現場の人数は少ない方が品質管理や安全管理もしやすい。外部にアウトソーシングをしたり、できるだけ少ない人数で生産性を高めるのが、私のミッションだと考えています」。そこでデジタルツールもさまざまに活用している。
外部の工場にアウトソーシングをしていると品質管理が課題となる。自社の「検査業務支援システム」を活用し、図面データと見比べながら効率的に検査業務を行い、撮影した写真や検査結果をクラウドストレージに保管することで、関係者全員がタイムリーに確認できるようにしている。また大規模現場を管理する目を増やすために遠隔カメラでリアルタイムにモニタリング。360°カメラも採用し、工程の進捗状況や安全状況をいつでもどこでも見られるようにしている。「データが残るため、躯体の状態、下地の状態、仕上げ後の状態を3つ並べて見比べられることも、品質管理を行う上で重宝します」。
工程管理においては、BIMで作成した3Dモデルに時間軸を加えた4Dによる施工工程シミュレーションを活用している。「初めての工法を採用しているので、我々ベテランでも工程のイメージが湧かない部分もある。ましてや協力会社や若手ならなおさらです。4Dによって施工順序がビジュアルで把握できるとイメージが湧いて、前向きに取り組めるようになる。デジタルツールは、そういうモチベーションアップにも寄与しています」。
もちろんデジタルがすべてではない。「職人さんの昔ながらの技術も大事。上手にミックスしていきたい」と飯塚はデジタルと匠の技の融合を目指す。今ある技術を最大限活かしながら、足りなければどんどん改革していく。建設労働人口が減っていく中で、デジタルとリアルのベストミックスが求められている。

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感謝の気持ちを持って、
みんなで喜びあいたい

飯塚が普段から大切にしているのは「感謝の気持ちを伝えること」「仕事を楽しむこと」だ。「私たちは自分の手で物はつくれない。職人さんにお願いする仕事です。だから、自分の計画通りにやっていただけたら、きちんと気持ちを伝える。その積み重ねが良い仕事に繋がっていくと思います」と飯塚。
「私自身、入社30年目でこのようなビッグプロジェクトに関われると思ってもみなかった。チャレンジすることはエンジニアにとって最大の喜び。会社人生も終盤に差し掛かってそんな気持ちを味わえるなんて、感謝でいっぱいです。これだけ大きなプロジェクトだと、いろんな方と巡り会える。シミズの方も協力会社の方もそうですし、この出会いを大切にしていきたい。みんなで仕事を楽しみながら、終わったときに喜び合えるように。そしてこの街をいろんな方々に笑顔で使ってもらえるように、がんばっていきたいです」と飯塚は笑顔で語った。

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