虎麻プロジェクトにビジネスを学ぶ 2023.04.26

現場との対話が実現した

“波打つ”施工

B-2街区低層棟

01 プロジェクト課題

施工難度を高めた傾斜

B-2街区は住居・ホテルが入る高層タワーを中心とした西棟と、商業施設が入る東棟に分かれ、西棟・東棟の低層エリアの屋上は木々が植えられて、一帯は緑豊かな中央広場になる。小高い山のような勾配のある屋根が特徴的だ。施工担当者に話を聞いた。
「施工の観点からすると、本当は階段状の方がコンクリートを打ちやすく施工しやすいのですが、この広場は本計画のコンセプトである『自然あふれる憩いの場』を具現化した大事な場所。小高い山のような波打つ屋根を実現するためにどうすれば良いか試行錯誤の連続でした」とB-2街区 西棟低層棟を担当する工事長の氏本。
ではどういった点が難しいのだろうか。まずは波打つような鉄骨の組み立てだ。1ピースずつ異なる形状の鉄骨を立体的に組み上げなければならない。鉄骨を組み立てた後は鉄筋を組むのだが、水平な場所に比べて作業が難しい。最大傾斜は36.4°もあり、滑りやすい足場は安全確保が課題になる。「傾斜のある鉄骨の上を歩いていくのですが、勾配のきつい場所に差し掛かると“足がかり”と“手がかり”が必要です。その上、屋根の上は重機が使えないので、重たい資材を担いで登っていく必要があります。安全対策と作業員の安全行動の徹底を呼びかけていきました」と東棟を担当する冨岡。
その後コンクリートを打設するのだが、急な斜面に単にコンクリートを打設すると滑り落ちて成形することができない。何らかの対策が必要であった。

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02 ブレークスルー

現場を見て声を聞く

実際に施工にあたっては、現場を見て職人の声を聞いて、施工計画をブラッシュアップすることが大切だ。「これだけ傾斜があり湾曲する大規模な施工を担当するのは、後にも先にもないかもしれない」と西棟を担当する榎本が言うように、こうした施工管理の経験者はほとんどいない。そんな時、経験豊富な職人の意見は貴重だ。「図面を見ても実際にここに人が立って作業できるのか分かりません。そこで3Dの絵を見せながら、どうすれば作業ができるのか職人と一緒に検討しました」。現場のメンバーと協議を重ね、最新技術も使って複雑な施工を実現する、ヒトとワザの共演があった。
また、斜面のコンクリートが成形できない課題に対しては、斜面を型枠で蓋のように覆い、その中にコンクリートを流し込んでいった。この型枠には自在ベニアと塩ビ製のパイプを使用した。
「通常、壁面の型枠は鉄製のパイプで固定するのですが、それだと直線的で湾曲する斜面になじまないという現場の意見を取り入れ、今回は型枠を塩ビ製のパイプで固定しました」。(冨岡)
「型枠の範囲も現場で相談しながら決めました。また職人からコンクリートの充填を確認するために型枠に空気穴や隙間を設けることを教わり、斜面にきれいにコンクリートを打つコツを学びました」と榎本。
安全面でも現場の声が反映され、鉄骨建方後、次作業に移る前に斜面のすぐ下に足場を計画した。「安全対策の一環として設置したのですが、鉄骨を溶接する際の足場になり、かつ最後まで残しておけば別の目的にも活用できるというメリットもありました」。(冨岡)
※自在ベニア:通常のべニアとは異なり自由な形状に加工ができる

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03 仕事の流儀

技術者として品質を守る

建築施工には「上下作業禁止」という基本的なルールがある。上で作業をしている間はその下では作業ができない。「低層エリアの上部に位置する高層棟の外部足場を迫り上げる間、低層エリアでは作業ができない」と氏本。しかし高層棟の計画が変更されたり、天候の影響で作業が遅延する場合もある。その都度、高層棟の現業チームと対話し、施工調整に走り回った。
立体的に組み上げる特殊な鉄骨、図面通りに製作された部材でも現場では想定通りに組み立てられないこともある。「課題を一つひとつ解決しながら工事を進めています」と榎本は苦労を語る。そんな中でも品質管理を徹底し、延べ1,500回以上の監理者検査に合格してきた。湾曲している斜面では鉄筋が微妙に上下に寄ってしまうが、鉄筋の必要な「かぶり(コンクリート表面から鉄筋までの距離)」を保ち、鉄筋の劣化を防ぐ。「我々は施工者であると同時に技術者でもある。品質は必ず守る」と氏本はシミズのポリシーを語る。

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04 まとめ

柔軟な発想が大切

若手の長坂は、麻布台ヒルズが初めての現場だ。勾配屋根の外部足場を担当し、足場を組み立てるヤードの確保に奔走した。「傾斜地に足場を設置するコツなど、職人さんから学んだことが多くありました。実際の現場で必要なモノやコトが職人さんから学べて、本で学ぶよりも何倍も勉強になりました」と長坂。ここで職人との対話の大切さを学んだ。
氏本は「正直、どんなベテランにとっても難しい形状です。でもそこで考えることを放棄してしまうと工事は止まってしまう。現場の中には経験者がいるかもしれない。そういう人たちの声に耳を傾けて、柔軟に考えていくことが施工者として大事なことだと思います」と語った。現場の声に耳を傾けて、柔軟にアイデアを広げる。険しい頂であればあるほど大切なことだ。

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Profile

氏本 育史

麻布台ヒルズ(虎ノ門・麻布台プロジェクト)

B-2街区 工事長

入社年:1995年

主な業務:施工計画・施工管理

Profile

冨岡 慎吾

麻布台ヒルズ(虎ノ門・麻布台プロジェクト)

B-2街区 主任

入社年:2010年

主な業務:施工管理

Profile

榎本 大利

麻布台ヒルズ(虎ノ門・麻布台プロジェクト)

B-2街区

入社年:2016年

主な業務:施工管理

Profile

長坂 頌子

麻布台ヒルズ(虎ノ門・麻布台プロジェクト)

B-2街区

入社年:2017年

主な業務:施工管理