虎麻プロジェクトにビジネスを学ぶ 2022.01.13

前例がない中、

いかに最適解を導いたか。

カーテンウォール

01 プロジェクト課題

厳しい気象条件の克服

都会をきらびやかに彩る高層ビルの顔、カーテンウォール。軽量かつデザイン性に優れ、高層ビルに欠かせない外装材であり、A街区のタワーにも採用されている。カーテンウォールという名は「建物の構造体にカーテンのように吊り下げるように設置されること」に由来しており、地震や台風などの外力に対して十分な耐力を持つ。しかし約330mもの超高層ビルにカーテンウォールを取り付けるのは、シミズはもちろん国内でも初めてのこと。未知の領域に挑むことになったA街区・工務チーム・外装担当工事長の水野は「設計者も施工者も手探りの状態でカーテンウォールの仕様を決めていきました。当初から決まっていたことは、ディベロッパー、設計事務所各社の要求仕様の中から最も厳しい仕様を採用するということ。タワー高層階は居住スペースになることから、快適性を追求した結果、日本一厳しいと言える仕様になりました」と語る。
関係各社が集まる外装についての分科会は週1回開催され、40人もの技術者があらゆる懸案事項について意見を出し合った。台風、豪雨、地震…想定される条件下で、カーテンウォールはどうあるべきか、さまざまな角度から議論。たとえば330m上空の騒音レベルについての議論があった。「当初、地表から離れるほど騒音は低減すると考えられていましたが、この場所の330m上空でどんな騒音がするのか。実際には誰にも分からないので、バルーンを飛ばして測定してみると、周辺の高層ビルの室外機などの影響を受け、一定距離まで徐々に騒音レベルが上がっていくことが判明。予想以上に遮音性が必要なことが分かりました」と水野。まったく同じ前例がないからこそ、徹底的な検証がなされた。

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02 ブレークスルー

考えられる限りの試験を実施

台風の際の強い風圧力に耐えられるか、豪雨の際に雨水が侵入しないか、地震で上下階に変位差が生じても外壁が脱落・破損しないか。会議では多くの課題が挙がった。建築総本部 生産技術本部 建築技術部 外装グループ長の安田は「330m上空でカーテンウォールが受ける影響を検証するため、千葉県にあるカーテンウォールメーカーの実大性能試験装置でより過酷な気象条件を再現し、性能を検証しました」と語る。カーテンウォールに風圧をかけながら散水を行い、さらに横揺れを発生させてデータを収集。そのデータを解析して仕様を検討していった。「超高層カーテンウォールの水密・気密機構はメンテナンスフリーを基本としており、シールなどで密閉しないため、風圧力を受けても雨水が漏れないように、実験結果をカーテンウォールのディティールに反映していきました」(安田)。実験後にはカーテンウォールを取り外し、バラバラに解体して傷や水跡なども確認。風圧・水密・地震以外の居住性や性能冗長性を高めるために必要不可欠な工程であった。
建築技術部外装グループは、千葉県姉ヶ崎に設置した実大実験場で、従来の2次元の測定方法ではなく、モーションキャプチャーを用いたより精密な3次元の挙動測定方法を確立してきた。その技術を生かして、実大実験によって確認された課題についても対策を考案した。さらに、ガラス交換の際にも騒音がしないか、実際のゴンドラを設置して交換作業を行ってみて、大きな音が立たないことを確認。夜間にはカーテンウォールに組み込まれたLED照明の見え方も検証した。「およそ3か月かけて、考えられる限りの試験を実施しました。ここまで徹底的に不安要素を潰していったのは、これまでに経験がありません」と水野は長い道のりを振り返る。

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03 仕事の流儀

品質を高めるワザ

A街区タワーの約1万7千ピース(2023年11月訂正)という大量のカーテンウォールは中国の工場で量産している。コロナ禍で出張ができない中、製造検査に活用されたのはオンライン会議だった。「本来であれば現地に行って確認したいのですが、コロナによってそれが叶いませんでした。日本に送ってもらったものを分解して検査し、オンラインで指示を出すというやり方を取りました。リモートでできることと、できないことがはっきり見えたので、とても良い学びの機会になったと思っています」と水野。「エラーを起こさないために重要なのは、チェックすることよりも、つくりやすくすること。チェックは見逃したら終わり。つくりやすい製作手順やディティールにすることで、品質を高めることができます」と安田はあらゆる仕事に通じる極意を語る。
実はカーテンウォールは、建築部材の中で最も高い施工精度が求められると言われている。許容される誤差は、製作誤差と施工誤差を合わせてたったの3㎜。これだけ大きなカーテンウォールをクレーンで吊りながら3㎜の誤差で収めていくという、途方もない精度が求められる仕事だ。しかもタワーは樽型になっているため、1枚1枚ユニット形状が異なり、取り付ける場所が決まっている。「1枚ずつ誤差を測定しながら、ある程度のスパン(間隔)で目地を使って誤差を吸収しています」と水野。職人の技術と、施工管理の目を融合した繊細な仕事が、高い施工品質を生んでいる。

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04 まとめ

合理的な解を導くために

先日、分科会は記念すべき100回目を迎えた。これまでにさまざまな課題が挙がり、その一つひとつにシミズは応えていった。「会議の前にメーカーと打ち合わせをし、たくさんのデータを集めて下準備をしてきました。全員が初めての経験、何が起こるか分からないという中で、解決すべき課題がどんどん出てくる。だからこそデータを積み重ね、明確な答えを提示していくことを心がけていました」と安田。明確なロジックを提示することで、余計なコストをかけない合理的な解を導いた。
安田は「超高層の外装をつくる上で我々も知らなかったことを、たくさん学ぶことができています。失敗できないプロジェクトの責任の重さを感じつつ、シミズにとって超高層の外装技術を蓄積できることが大きい」と未来を見据える。水野は「ここまで外装に力を入れる現場はありませんでした。分科会の中で何度も協議し、苦労してきた分、出来上がった時は喜びも倍増するはず。カーテンウォールは建物の顔。きっと圧巻だと思います。今から完成が楽しみです」と笑顔で語った。

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Profile

安田 辰雄

建築総本部 生産技術本部 建築技術部 外装グループ

グループ長

入社年:2019年(キャリア採用)

主な業務:外装技術支援・開発

Profile

水野 聖

東京支店 虎ノ門・麻布台プロジェクトA街区建設所

工事長

入社年:2003年

主な業務:工務 外装担当