CASE 08

株式会社内野製作所
あきる野工場

トップクオリティーの製品を作り出す超精密高精度工場

世界最先端の技術力を有する工場を計画するに当たり、「従業員の働きやすさ」と「高品質のものづくりを支える環境」をテーマに設計しました。実現に当たっては、設計にデジタルデザインを活用しています。

計画地
: 東京都あきる野市
敷地面積
: 3404.27㎡
延床面積
1990.49㎡(本棟)
151.28㎡(別棟)
階数
: 地上2階 PH1階
構造
: S造
> 株式会社 内野製作所

コンピュテーショナルデザインを
活用し、
「従業員の働きやすさ」と「高品質のものづくりを支える環境」を提案


株式会社内野製作所あきる野工場は、新車開発用の特注ギヤやモータースポーツ用の特殊ギヤの製作を行う、世界でもトップクオリティーの製品を作り出す超精密高精度工場です。

まずはじめに、設計者自身が既存工場へ体験入社を行い、工場で働いている人と同じ空間、時間を経験しました。そこで得た知見を基に「従業員の働きやすさ」と「高品質のものづくりを支える空間」を目指し、設計しました。
次に、光や熱といった環境要素がそこで働く人や機械に与える影響を把握するため、環境シミュレーションを活用することで、目に見えない要素を可視化し、設計にフィードバックしました。
ここでは、その環境シミュレーションを使った設計手法を紹介します。

光と熱を可視化する

生産エリア

光環境と温熱環境を可視化し、
それらのトレードオフの中からバランスの良い案を導き出す

非常に機密性の高い製品の加工を行う施設であるため、生産エリアの外壁に窓を設けることは難しく、従業員が自然光を感じにくいという課題がありました。また、生産エリアに設置する精密機械は、精度を確保するため非常に厳しい気流環境と温度の条件を保つ必要があります。そこで、屋根にハイサイドライトを設け、建物の外周部には機械室等を配置して二重壁構造とすることで、外皮の熱負荷を低減し、従業員が自然光を感じられる計画としました。
一方で、ハイサイドライトによって、工場の温熱環境を悪化させる可能性もありました。
そこで、環境シミュレーションによって工場内の光と温熱環境を可視化してバランスの良い案を導き、人と機械に優しい空間を目指しました。

生産エリアの断面計画

自然光によって明るく働きやすい光環境

工場内にできるだけ自然光を取り込みつつも、工場内の床面に直射光が入らないよう、働きやすさに配慮したハイサイドライトの配置や形状を検討しました。短時間で最適な形状を探索するため、今回は二つのステップに分けて光環境をシミュレーションしました。

1年間の太陽光の軌跡

1. 直射光の可視化
まずは1年間、8時から17時の太陽光の軌跡をシミュレーションし、ハイサイドライトの形状や大きさに応じて、直射光が入ってしまう時間帯を確認しました。

年度照度のシミュレーションの結果

2. 年間照度のシミュレーション
次に、1年間8時から17時の時間帯で自然光により目標照度(150~2000Lux)が確保できている割合を可視化し、工場内により多くの光を取り込めるハイサイドライトの配置計画を検討しました。

働く人の快適性と生産機械の精度に配慮した温熱環境

ハイサイドライトのガラス面における積算日射量を算出し、太陽光による工場内への熱負荷を可視化しました。また、生産機械の発熱を考慮した工場内の温度分布を算出し、居住域の温度条件を満たすよう検討を行いました。
さらに置換空調システムを採用。外周部の吹出し口から穏やかに吹出風速0.5m/s程度の空調空気を吹出すことで、働く人に不快感を感じさせず、生産機械の精度に影響を与えない空調計画としました。

ハイサイドライトのガラス面と屋根面の積算日射量

温熱環境シミュレーション(断面)による
置換空調システムの効果検証

光環境と温熱環境のシミュレーションを統合

光環境と温熱環境のシミュレーション結果を統合し、ハイサイドライトの形状と配置を決定しました。まず、ハイサイドライトの開口部の大きさなどをパラメータとし、さまざまな案を自動生成。そのすべての案で年間照度と積算日射量のシミュレーションを行いました。その結果から最適な計画を導くためにShimz Explorer*を利用し、設計者がシミュレーション結果を比較して案の絞り込みを行いました。この手法によって、光環境と温熱環境のバランスが良い案を導くことができます。

年間照度のシミュレーション結果と
Shimz Explorerを用いた案の絞り込み

*1 Shimz Explorer:Brute Force Methodによる最適解の絞り込みツール(開発協力:Thornton Tomasetti / Core Studio、アルゴリズムデザインラボ)
パラメトリックに生成した膨大な案の可能性の中から、複数の目標値を設定して解の絞り込みを行う手法

柔らかく光を取り込む

エントランスホール

自然光による展示空間の演出

来客を迎え入れるエントランスホールは、レーシングカーやギヤ製品などを展示するため、自然光を取り込み、展示品を引き立たせるようにしました。トップライトとルーバーによって柔らかく光を取り込みつつ、快適な温熱環境を両立させるため、トップライトに熱だまり空間を確保し、明るく快適な空間を実現しました。

エントランスホールに設けたギア製品の展示スペース

輝度、照度分布の確認

トップライトには水平ルーバーを設けることで光を拡散させ、エントランスホール全体が明るい空間となるようにしました。トップライトによるグレアがどのように見えるか確認するため、特定日時の輝度分布図を作成し、検証を行いました。
照明計画は、階段の段床や天井のルーバーに設けた間接照明を主体とし、落ち着きのあるものとしました。また、夜間の照明点灯時の照度分布図も作成し、しっかりと明るさを確保できる計画としました。

【日中】
自然光による明るさのイメージ画像(左)と輝度分布図(右)

【夜間】
照明による明るさのイメージ画像(左)と照度分布図(右)

意匠設計

早田 倫人

意匠設計

深町 駿平

意匠設計

遠藤 由貴

設備設計

堤 裕樹

電気設計

山田 雄太

精密機械を扱う工場であったため、非常に厳しい環境性能が求められましたが、性能を確保しつつ従業員が自然光を感じて快適に働ける環境をつくることができたと思います。設計段階において、お客様が図面から建物内の明るさや温熱環境を想像することは難しいですが、環境シミュレーションによって定量的な数値と可視化されたイメージを作成することで、スムーズに合意形成ができたと思います。設計に環境シミュレーションを駆使することは、建物の環境性能を向上させるだけでなく、目に見えない情報の可視化によって関係者同士の意思疎通にも役立つと感じました。

OTHER CASE