CASE 06

ミチノテラス豊洲 ラビスタ東京ベイ

都心をのぞむ
-豊洲の海と繋がるアーバンリゾートホテル-

街区のテーマである「風」が豊洲の海と出会い、生まれる「波の表情」で建物を包むデザインとしました。低層部はこの地区に広がる豊洲ぐるり公園と一体となった心地よい水際空間を目指した建築です。

計画地
: 東京都江東区豊洲六丁目4番の一部
延床面積
: 約32,000㎡(ホテル棟)
階数
: 地上14階
構造
: S造
段階
: 竣工(2022年)

> 日本初の都市型道の駅「豊洲MiCHiの駅」

> Shimz DESIGN ミチノテラス豊洲 ラビスタ東京ベイ

3種の意匠性に応じた
コンピュテーショナルデザインの
利用

本案件では3か所の意匠性の異なる外構デザイン・基準階PCパネル・屋上目隠し壁に関して、アルゴリズムを「評価」「生成」「最適化」という特性に合わせて導入しました。

多面体で形成する
外構デザイン

運河に面する水際緑地

複雑な与条件を同時に評価した
外構デザイン

運河に面した水際緑地を多面体の緑地で形成するデザインを目指しました。緑化面の取合いや盛土荷重計算、緑化面積の算定など、複雑な与条件を同時に評価する必要があり、アルゴリズムを用いて数値をグラフィカルな確認と共に進めました。

原案スケッチ

期待感を高める散策みちとは

従来は設計者の経験則に基づくことが多い外構デザインですが、今回は可能な限り、歩きたくなる“散策みち”を物理的なパラメータに置き換え、総当たりで可視化することを目標として検討しました。下記がキーワードの一例です。
・身体の向きを少し変える程度の「折れ曲がり」
・傾斜1/20 以下での滑らかな「起伏」
・波に呼応し、リズム感のある「道幅」

散策みちの形態生成

角度を制御した「折れ曲がり」選定

Galapagosを用いた起伏の調整

波のSineカーブをもとにした道幅の検討

多面体の勾配判定・樹木選定フェーズの前倒し・荷重制限の判定

続いて、緑地の形態をボロノイ図の交点同士を結んだ図形(ドロネー図)を利用したアルゴリズムで計算させ、その法面勾配を「擁壁の設置要否」「地被/低木/中木/高木それぞれの根入可能角度」に応じた色分けを行いました。列植可能な樹種選定のフェーズをデザイン検討の初期段階で同時に行うことが可能になります。
また、東京都の港湾隣接地域の荷重制限に準ずるため、緑地帯の盛土などの荷重分布を同時にビジュアル化し、検討しました。

法面勾配と根入れ条件をビジュアル化

同時に盛土に対し荷重分布を計算

樹木の自動入力と行政緑化基準の判定

AutoCAD上でのプロット図で、Rhinoモデル上に枝張りが似た樹木オブジェクトを自動配置するアルゴリズムをつくりました。
ここでは、東京都と江東区でそれぞれ定められた緑化基準に基づき、各樹木の高さ/樹冠サイズを変数として緑地面積を算定させることで、視覚的なバランスと法的な与条件の同時検討を行っています。

プロット図からRhinoモデルに樹木を自動配置

与条件の統合・最後は設計者の眼で選定

上記で拡散した変数たちをShimz Explorer*1を介して統合し、膨大なパターンのモデルを生成しました。それらを設計者の眼でピックアップして評価、調整するプロセスは従来の設計プロセスの良い部分を、デジタルの力で強化したものと言えます。さまざまな指標のなかで、どれをトレードオフするのかという議論を重ねながらデザインを決定していきました。

*1 Shimz Explorer:Brute Force Methodによる最適解の絞り込み*2ツール。(開発協力:Thornton Tomasetti / Core Studio、アルゴリズムデザインラボ)
*2 絞り込み:パラメトリックに生成した膨大な案の可能性の中から、複数の目標値を設定して解の絞り込みを行う手法。

複数の与条件から可能性があるデザインパターンを絞り込み

豊洲の海を写し込む
外装のデザイン

豊洲の海を外装へ

計画敷地の北側眼前には広大な豊洲の海が広がっており、時間の移ろいとともに様々な模様が海面に浮かびます。このホテルから見える表情豊かな豊洲の海を外装コンセプトに取り入れました。

様々な海面の表情

このコンセプトを実現するために、基準階のPC(プレキャストコンクリート)外装パネルに豊洲の海を映しこむアルゴリズムを開発しました。豊洲の海面に着目し、そこから元となる曲線を抽出、海の画像の明暗を数値化することで、暗いところほど陰影が濃くなるように傾斜リブを生成しました。

豊洲の海を写し込むPC外装パネルパターン生成ツール

型枠寸法と近似コストを
変数に組み込む

波のパラメータがパネルに納まるようにスタディを繰り返す中で、コストや製作上の制限が顕在化しました。そこで、デジタルで大まかな波の表情を決めた後に、型枠側の工夫へシフトします。PC工場と一体となり、ファブリケーション方法の議論を重ね、製作の効率化・コスト減を目指しました。結果的に、鋼製型枠の転用回数を最大化することでパターン数を抑え、規格品のフラットバーでPC外装パネルの表面に波の凹凸をつくり出す方向性を見出しました。

PC外装パネル作成工程より、パラメータを抽出

数に限りのあるPC外装パネルのパターンでも、出来るだけランダムに見えるように傾斜リブを組み合わせています。施工コストやリブにより表面にできる影の量などをパラメータとし、Shimz Explorerを用いて絞り込みを行うことで、デザインの美しさだけでなくコスト面でも合理的な外装パターンを探索しました。

Shimz Explorerを用いたパターンの絞り込みの様子

実環境にアウトプット、最後は眼で確認

ディスプレイの中だけでなく、候補となる案を瞬時に3Dプリンターで出力し、その形状を確認します。最終承認前には、現場で実寸のモックアップを作成することで実環境の中で波形パターンがどのような表情を見せるか探りました。

3Dプリンター模型(左)とモックアップ(右)

冠壁のかたち

豊洲大橋からの眺め

視線を遮る冠壁の自動生成

屋上に設置した設備機器を最低限の冠壁で隠すため、設定した複数の視点から、視対象(屋上設備機器)とを結ぶ視線を作成し、すべての視線を遮る「目隠し壁」を自動生成できるプログラムをGrasshopperで開発しました。

視線と目隠し壁の生成ダイアグラム

周囲に開けた敷地条件を考慮し、周辺道路や豊洲大橋に加え、眼前に広がる運河対岸、最寄り駅ゆりかもめ線車内、隣接した公共施設の屋上庭園など考えられるほぼすべての視点群からの視線検証(左下図)を実施。その結果得られたすべての視線を遮る、最小で最適な冠壁(右下図)を自動生成させました。

敷地周辺の様々な視点から屋上設備機器への視線(左)と
それらを遮る自動生成された冠壁(右)

デジタルスタディで探索する冠壁の表情

Grasshopperにより導き出された最低限の目隠し壁をベースに、それらを滑らかにつなげ、冠壁としての連続性を与えました。さらに意匠的な微調整を繰り返すことで、より洗練されたデザイン案を探索していきました。
タイプの異なる折版の配列によるグラデーションが、冠壁に多様な表情を生み出すよう、詳細な3Dモデリングとリアルな自然光変化を反映したレンダリングによるデジタルスタディを重ね、その可能性を追求しました。

冠壁の意匠検討プロセス

詳細な3Dモデルとレンダリングによるデザイン検討

意匠設計

竹中 祐人

意匠設計

松井 遼

コンピューテショナルデザインは、従来の手書き検討とは異なる偶然性を孕んでいて、設計するという行為を更にワクワクしたものにしてくれました。初めて担当した案件でしたが、多くの変数とビジュアル化機能が、僕らの限られた経験則を補ってくれました。 その一方で、やはり解が増えるからこそ判断が曖昧になり、いかに評価・意思決定するかが大きな悩みで、多方面からたくさんの助言を頂き、設計を進めることができました。

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