世界最先端のゼロエミッション国際共同研究センターにふさわしいアイコニックな象徴という命題に対し、テクノロジーの結晶としての“ゼロエミの木”を本館エントランスに据え、車寄せの庇としての機能を内包させました。
ゼロエミッション国際共同研究センター
ー産業技術総合研究所ー
脱炭素社会のシンボルツリー“ゼロエミの木”
本館エントランスキャノピーは、産総研の歴史を物語る敷地内の豊饒な樹々をモチーフに得た有機的な樹状デザインとし、研究成果の成長発展や技術融合のシンボルとしました。柱と梁がシームレスに連続するフラットバー鋼材の幹と枝はガラス屋根を支え、葉に見立てた発電セルと樹状架構により、光が木漏れ日のように入る明るく開放的な空間としました。
- 計画地
- : 茨城県計画地 茨城県つくば市
- 敷地面積
- : 262,416.52㎡
- 延床面積
- : 473.25㎡(新築部分)
- 構造
- : S造
- 工期
- : 2020年10月‐2021年3月(新築部分)
コンピュテーショナルデザインから
デジタルファブリケーションまで、
デジタルとリアルを双方向に
オーバレイする新たなものづくり
コンピュテーショナルデザイン
デジタルの種をまく
デザインの可能性を拡張する
効率的なデザインスタディ
設計初期段階よりRhinoceros+Grasshopper を用いて柱や梁などの形態生成をアルゴリズム化し、各部材の位置や断面寸法、曲率を変数にモデルを作成しました。短い設計期間の中で多数案のデザインスタディを効率的に行い、様々な可能性を探ることができました。ランダムな樹木状を生成する仕組みをプログラム化し、1.5mグリッドのガラス支持点など、諸条件を架構に落とし込むことができました。
柱(幹)と梁(枝)の絡み方のスタディ
Shimz Explorerによる最適化検証を行い
短時間で複数の案を検証評価
“ゼロエミの木”ダイアグラム
車両軌跡を避けた場所から芽がでて、
幹が伸びて枝がしげり、来訪者を迎え入れる
大きな木となることをイメージしました。
葉のように太陽光発電セルが点在し、
木漏れ日のような光を落とします。
力の流れを可視化する
応力解析、構造最適化検証
制約条件として3本の柱位置を設定(車両軌跡による)した上で、切板のせいおよび厚み、柱の主軸方向、梁の水平角度を設計変数として設定したパラメトリックモデルを作成しました。パラメトリックモデルには構造解析プラグインであるKarambaを連携させ、構造架構形状の変更に対し瞬時に構造性能を確認できるシステムを構築しました。さらに目的関数として鉛直変形量と鉄骨総重量の最小化を設定し、遺伝的アルゴリズムにより設計目的を満足する構造架構を5000ケース以上の中から探索しました。
Karambaによる応力解析
最終候補案の伏図と応力図
Shimz Explorerによる最適解の絞り込み
地震応答解析/ガラス変位挙動解析
鉄骨の変位に対するガラスへの影響を把握するため、ガラスとシールを含めた複合モデルを構造設計者とファサードエンジニアが共同で作成し、レベル2(震度6強程度)に対する地震応答解析および熱の影響を与えて変位挙動解析を行いました。解析結果を基にガラスの設計クライテリアを設定し、ガラスの支持金物のサイズ決定を行いました。
地震応答解析
ガラス変位挙動解析
各種シミュレーションにおける
設計モデルデータのフル活用
設計モデルデータを使い、雨水経路の解析、反射光による既存建物への影響、外構照明検討、明るさ感の検証など、様々な性能検証を同時平行で行い、設計段階におけるつくり込みを行いました。
反射光による既存建物への影響検証
雨水経路可視化により、樋ディテールの検討
照度検証
明るさ感の検討
Enscapeによる木漏れ日の検証
デジタルファブリケーション
木を育てる
3Dデータの施工連動
Rhinoceros+Grasshopperを用いて2次元データを自動的に書き出すプログラムを構築し、鉄骨製作図へのデータ連動を行いました。発行した軸組図は、切板加工データと連携し、歩留まりのよい効率的なカッティングプランの作成に活用しました。地震応答解析の結果により部材の追加変更が生じた際も、スムーズに追加部材の軸組図を発行することができました。
工場製作段階ではデジタルデータを使うことで、加工基準点の座標値を管理値として精度管理を行いました。
プラズマ切断機にて切断された切板
組立前の切板パーツ
3Dモデルから2次元データに書き出した切板加工図
現場への運搬および作業性を考慮し200ピース以上の
切板部材を70ユニットに分けて工場製作しました。
工場製作段階ではデジタルデータを使うことで、
加工基準点の座標値を管理値として精度管理を行いました。
柱部材鉄骨建方
梁部材鉄骨建方
梁材を仮設エレクションピースにて仮組み
全体を仮組みしたのち本溶接
支持点解除(ジャッキダウン)現場風景
施工ステップ解析による
ジャッキダウン手順の決定
各施工段階(鉄骨仮組・全溶接一体化・ジャッキダウン・ガラス施工)における施工ステップ解析を実施し、溶接ひずみや支持点解除の順序と変形量の関係を予測し、最適な施工手順を決定しました。
施工時と解析時の変形量の傾向はほぼ同じとなり、複雑形状を有する構造架構の施工時挙動を事前に把握することができました。
121か所以上にもおよぶ管理点は3Dデータから座標を情報として算出し、精度管理に活用しました。
支持点解除(ジャッキダウン)
施工ステップ解析
ガラス支持金物施工風景
デジタルとリアルを重ね合わせる
AR(拡張現実)による次工程確認
AR技術を用いて、デジタルデータと現場との重ね合わせを行いました。複雑な架構において、工程ごとにレイヤ表示することで、現場での次工程確認、完成イメージの共有を行いました。(当社開発アプリ Shimz AR Eye使用)
タブレット上のARアプリで現場を見た様子
3Dスキャンによる
デジタルモックアップ
外構に配置する石の3Dスキャンを行い、テクスチャを含めたリアルなメッシュデータとして、デジタル上で配置の詳細検討を行いました。完成イメージの合意形成や、現場作業の円滑化や出来栄えの向上に寄与しました。
3D計測による精度管理
支持金物取付の前後で支持点の3D計測を行い、デジタルと現場を重ね合わせることで高い施工精度を実現しました。
意匠設計
谷 泰人
意匠設計
深町 駿平
構造設計
原 裕之郎
構造設計
黒木 光博
構造設計
大江 諭史
デジタル空間で発芽させたデザインを、リアルな空間で多くの人の技によって“ゼロエミの木”として育て上げる。コンピュテーショナルデザインからデジタルファブリケーションまで、デジタルとリアルを双方向にオーバレイする、新たなものづくりを実現しました。このDDEをプラットフォームとした設計から施工まで一貫したデジタル活用は、デザインとエンジニアリングを高度に融合するソリューションとして更なる可能性を秘めており、「デジタルゼネコン」を標榜する当社の大きな強みであり、今後のスタンダードになると確信しています。