旧久邇宮邸耐震改修(聖心女子大学)
~旧久邇宮邸の耐震改修工事についてご紹介します。
聖心女子大学構内に建つ旧久邇宮邸は、大正期に建てられた香淳皇后(昭和天皇の皇后)の父、久邇宮邦彦王の邸宅です。後の戦災を免れ、御常御殿と旧本館小食堂(通称:パレス)、旧本館御車寄せ(通称:クニハウス)、正門が現存しています。
大正13(1924)年に竣工した御常御殿は、台湾総督府庁舎などを手掛けた森山松之助氏が設計しました。台湾檜や欅などの銘木を用い、高度な木工技術を駆使した室内には、美しい透かし彫りの欄間や上質な座敷飾りが備わり、壮麗かつ気品のある空間に仕上げられています。
また、前田青頓氏ら日本画の巨匠たちによって描かれた美しい天井画や杉戸絵・襖絵が彩りを添えています。
近年の厳しい気象条件を受けて雨漏れや瓦の落下等、大規模補修が必要な時期を迎えたため、耐震補強を含めた改修工事を行いました。
この建物は、国登録有形文化財(平成12年登録)であったため、外観や美術的価値の高い内装を損なうことなく耐震改修を行う必要がありました。
そこで、創建時の部材をできる限り活かし、劣化状況を精査した上で腐朽部分を除去して修理するとともに、既存の壁を耐震壁にし、屋根瓦を葺き替えて軽量化をはかる耐震改修を実施しました。
原寸大の耐震壁を制作し、耐力を測るための載荷実験を実施しました。
耐震壁の性能を確認した上で、補強仕様を決定し、実際の工事にあたります。
耐震壁施工のため、既存の漆喰塗りを撤去しました。
漆喰塗り撤去後の壁には縦横に張られた特徴ある木摺り下地も確認されました。
耐震壁の施工は、
- 横架材を取り付け
- 四方に受材及び胴つなぎを取り付け
- 構造用合板を取り付け
- 仕上げ材で仕上げ
耐震壁の構造
耐力を上げるための金物を新規補強用木材に取付けました。
新規補強用木材と金物を一体化するための寸分違わぬ孔を開ける匠の技が光ります。
四方に受材及び胴つなぎを取り付け、構造用合板を取り付けます。
室内への通風を配慮してほしいというお客様の要望を受け、耐震壁の構造を格子壁とすることで、室内への通風を確保しました。
天井裏になる部分は通常の構造用合板を取り付け、室内部分には縦横の新規補強用木材を取り付けました。
耐震格子壁の構造
耐震格子壁は木材そのままの仕上となるため、出来上りは職人の技量に大きく左右されます。
屋根軽量化のため、土葺きで葺かれた既存瓦を撤去し、乾式工法で葺き直しました。
屋根に掛かる荷重が1点に集中することなく均等に掛かる様に新しい瓦を配分し、仮置きしました。
腐朽した小屋組を新調材で修理しました。
屋根の曲線を美しく仕上げるため、垂木を一本一本、調整しています。
建物は学生たちの情操教育や伝統文化継承の場として利用されるため、往時の趣を残しつつ、室内の美術品の劣化及び損傷を防ぐ目的で杉戸絵・襖絵の複製を作製しました。
複製された天井画の位置を一枚一枚慎重に確認しながら取り付けしました。
既存の鬼瓦は後世に引き継ぐため残したいというお客様の想いを受け、一部を庭の景観として配置しました。
竣工後の小食堂
このお部屋で学内のコンサートも開かれるそうです。
工事を終え、より安全で末永く利用できる環境が整った旧久邇宮邸は、平成29(2017)年、和風を基調とした宮家の邸宅で唯一残る貴重な遺構として国の重要文化財に指定されました。
施工データ
名 称 | / | 旧久邇宮邸耐震改修 (聖心女子大学) |
---|---|---|
所在地 | / | 東京都渋谷区 |
設 計 | / | 清水建設
|
規 模 | / | 建物面積926m2(改修面積) 地上2階 |
構 造 | / | 木造 |
竣 工 | / | 2016年3月 |