施工に込めたプライド コンクリート柱に浮かび上がる木目の秘密

1959年「国立西洋美術館」竣工半世紀を超えてなお美しいコンクリート

広いピロティと空中に浮かんだような四角いフォルムや
仕切り壁のない回廊。
ル・コルビュジエの目指していた自由な空間を
実現したのは、美しさと堅牢さを兼ね備えた
コンクリートの円柱でした。

コンクリートの名人とうたわれた 森丘四郎

施工にあたり、設計に協力していた前川國男から現場主任として指名されたのが当社の森丘四郎でした。 フランスで建築を学んだ森丘は、コンクリート施工の名人とうたわれ、前川の代表作品である日本相互銀行本店や東京文化会館などの施工も手掛けています。 前川は、自分の作品を清水建設が施工するときは森丘を現場主任に指名したそうです。その厚い信頼と期待に応えるべく、森丘は一流の職人を集め工事に臨みました。

設計者の意志に反しても身だしなみと品位を 与えられないか。

何もかもが手探りの中での施工。森丘の思いが当時の社内報に残っています。 『ル・コルビュジエ氏のこの素朴な設計 ―― 美術品を展示する素朴な箱といった感じのする美術館を、どんな感覚に仕上げたらよいだろうか、私の頭に浮かんだのは粗野で荒々しい中世紀のヨーロッパの田舎にみられたシャトウであった。 しかし、小手先の器用すぎる私達がそんな仕事をしても、出来上がる建物が感覚の乏しい偽りの多い建物になるだろうということが懸念され、設計者の意志に反するとしてもせめてこの質素な木綿の着物を着た淑女に、几帳面な身だしなみと多少の品位を与えることが出来ないものか。これが、この美術館の図面を見て私が考え、施工しようとした方針であった。』

コンクリート円柱の型枠
写真提供:藤木忠善撮影、坂倉建築研究所所蔵

まるで家具を作るように姫小松を枠にして、そこにコンクリートを 流していった

デザインの要となる打ち放しコンクリート円柱の施工では、当社東京木工場(当時の深川工作所)の職人たちが、高価な姫小松材を用いて円筒状の型枠を製作。継手に雇い実矧を用いたその手作業は、「まるで家具職人の仕事」と関係者から評されるほど高精度なものでした。 現場では、その型枠の足元からコンクリートの水が抜けないように、左官職人が高さを合わせてモルタルで丸く足元をつくった他、型枠を二度使いせず、実に丁寧にコンクリートを打設したと伝えられています。こうして姫小松材の美しい木目が転写されたコンクリートの円柱ができあがりました。
※雇い実矧(やといざねはぎ):双方の板材の側面に溝をつくり、その溝に木片を差し込んで接合する方法

型枠建て込み直前の円柱の足元

東京木工場で当時の施工法で円柱を再現

2016年9月に東京木工場で行われた、当時の施工法で円柱を再現した時の模様を動画で紹介しています。再現にあたっては、実際の柱を計測し、仕上がり寸法を実物と同じ直径60cm、高さは1/4の1mに設定して型枠を製作。型枠には、当時使われていた姫小松は現在入手が困難なため、杉が使用されました。

人間を基準にした独自の尺度を開発。晩年はモダニズムから離れた独創的な造形も

留学のため18歳で渡仏し、リヨン美術学校に入学。その後、鉄筋コンクリート造建築の先駆者であり、ル・コルビュジエの師でもあったオーギュスト・ペレのアトリエで学ぶ。国立西洋美術館の設計に協力した日本建築界の巨匠、前川國男から丁寧な仕事ぶりを認められ、現場責任者として指名される。その厚い信頼と期待に応えるべく、一流の職人たちを集め工事に挑んだ。

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