人と社会とともに —挑戦が未来をつくる― 人と社会とともに —挑戦が未来をつくる―

NOVAREアーカイブス ジェネラル
コンダクター、館長

宮田 幹士

NOVARE LETTER

人と社会とともに
—挑戦が未来をつくる―

NOVARE Archives
(清水建設歴史資料館)特集

温故創新の森NOVAREにおいて、ものづくりの原点に立ち返る場所。
それがNOVARE Archives(清水建設歴史資料館)です。
展示のコンセプトに「挑戦のシミズ」を掲げるこの場所には、清水建設の220年を超える歴史の中で受け継がれてきた挑戦の軌跡と、未来へ挑み続ける意志が息づいています。
なぜ今、歴史が必要なのか。

NOVARE Archives館長 宮田とともに、清水建設の挑戦の歴史を紐解きます。

WHY(なぜ、歴史が必要なのか)

1.Today's Work Tomorrow's Heritage
その思いの集積がNOVARE Archives

今日の仕事が、明日の伝統になる。その思いの集積がNOVARE Archives

まず、NOVAREに歴史資料館を開設した意義を教えてください。

宮田:清水建設は創業220年を超え、数多くの建造物を手掛けてきました。その積み重ねの中で残された資料群は、「清水建設の歴史」という枠組みを超え、「日本の建設業の歴史」であり、社会にとって価値ある貴重なものです。
ところが、これまでそれらの資料を体系的に公開する場はありませんでした。社会のため、そして次世代のために歴史資料館をつくる。その使命感こそが、NOVARE Archives開設の原点の一つになっています。

NOVAREの施設コンセプトは「温故創新の森」。
改めてお伺いしますが、なぜ今、歴史が必要なのでしょうか。

今日の仕事が、明日の伝統になる。その思いの集積がNOVARE Archives

宮田:建設業は、歴史と共にあるビジネスだからです。今建てたものが50年、100年後の未来に残っていく。つくって終わりではなく、メンテナンスも含めて価値を未来へつないでいく仕事なのです。
中には、創業期の初代・二代の清水喜助の時代から信用を積み重ね、ずっとお付き合いが続いているお客様もいます。ですからNOVARE Archivesの資料や模型群は、単なる技術の記録ではなく、社会やお客様とのコミュニケーションの歴史でもあるわけです。
そして歴史は、一つの断面だけを切り取っても本当の価値は見えてきません。一層一層、積み重なった先に今日があり、未来がある。
清水建設のコーポレートメッセージ「子どもたちに誇れるしごとを。」は、海外向けに「Today's Work, Tomorrow's Heritage」と英訳しています。今日の仕事が、未来に受け継がれる伝統になっていく。その思いの集積が、このNOVARE Archivesなのです。

実際に来館し、資料や展示に向き合うと、ミュージアムのように濃密な情報量と見応えに圧倒されました。歴史を振り返る場であるNOVARE Archivesですが、施設コンセプトに「挑戦のシミズ」を据えた思いを聞かせてください。

NOVARE Archives清水文庫
NOVARE Archives清水文庫

宮田:そもそもMuseumではなくArchivesと名付けたのは、ここに示される清水建設の軌跡が、未来の建設を担う方々にとって意義あるHeritageとなってほしいという思いがあったからです。
そして初代や二代清水喜助は、時代を先取りし、未知に挑む「進取の精神」で時代を切り拓いてきた人物です。挑戦なくして、今の清水建設はなかった。つまり、挑戦そのものが「シミズの原点」であると言えます。 その原点にいつでも帰ることができる場所として、NOVARE Archivesは「挑戦のシミズ」を掲げているのです。

HOW(どうやって伝えるのか)

2.新CM「変わらぬ眼差し。」篇に描かれた、
時代を切り拓いた挑戦の軌跡

新CM「変わらぬ眼差し。」篇に描かれた、時代を切り拓いた挑戦の軌跡

NOVARE Archivesの見どころの一つである「エポック展示」。各時代にインパクトを残した画期的な作品を精密な模型で再現し、日本建設業の歩みを年代記として見ることができる壮大な展示です。

宮田:エポック展示では、清水建設のエポックメーキングとなった24作品の模型を展示していますが、これらはすべて、NOVARE Archivesのために新たに制作したものです。こだわり抜いた模型群を前に、来館者の皆さまが「おお!」と感嘆の声を上げてくださるのがうれしいですね。

6月末から清水建設の新CM「変わらぬ眼差し。」篇の放映が開始されました。CMに登場する5つの施工物件のうち、3点はエポック展示内に模型があります。

それぞれの作品について教えていただきたく、まずは日本最初の銀行となる第一国立銀行(三井組ハウス)についてはいかがでしょうか。

第一国立銀行/1872年竣工
第一国立銀行(三井組ハウス)/1872年竣工

宮田:二代清水喜助が設計・施工を任されたこの建物は、和洋折衷の擬洋風建築として明治初期を代表する建物の一つとなりました。総監役(のちに頭取)には渋沢栄一翁が就任し、二代喜助と渋沢翁の縁をつないだ建築でもあります。
二代清水喜助は西洋建築を学問的に学んだわけではありませんでしたが、今後の主流が西洋建築になると見越していました。明治維新の中で、日本全体が新しい時代を渇望していた頃。渋沢栄一翁をはじめ、皆が手探りで新しい日本を形づくっていった、その情熱を思うと胸が熱くなります。だからここにあるのは単に清水建設の歴史ではなく、パートナーの皆さまと共に歩んだ共創の歴史なのです。
また、第一国立銀行はエポック展示の中で唯一、原寸模型(壁の一部)を展示しています。
これができたのは、当時の実測図が残っていたからです。激動の時代において、当時の人も「残すべきだ」と考えた。そのこと自体に大きな意味を感じます。現在、東京都江戸東京博物館で開催中の特別展「洋館 明治の夢と挑戦」において、第一国立銀行と二代清水喜助がクローズアップされている。 (2026年6月23日から8月23日まで開催中 https://www.edo-tokyo-museum.or.jp/s-exhibition/western-style-architecture/

現在は「SEIKO HOUSE」として銀座4丁目交差点に建つ、服部時計店ビルディングはいかがでしょう?

服部時計店/1932年竣工
服部時計店ビルディング/1932年竣工

宮田:日本近代の都市文化を代表する建物です。実は今のビルは二代目で、初代の建物の原寸大模型はリニューアルオープンした東京都江戸東京博物館にあり、内部に入ることもできます。大正期に建て替えが計画されましたが、関東大震災で計画変更・設計見直しを余儀なくされました。結果、鉄骨鉄筋コンクリートや強靱な御影石を採用し、当時としては最高水準の技術や素材を用いています。未曽有の災害を乗り越えた人々の、強い意志が刻まれた建物ですね。

最後は国立屋内総合競技場 主体育館(現 国立代々木競技場 第一体育館)です。1964年に開催された東京五輪のシンボルであり、2021年には国の重要文化財に指定されました。

国立代々木競技場第一体育館/1964年竣工
国立代々木競技場第一体育館/1964年竣工

宮田:まさに挑戦のシンボルと言えるプロジェクトです。 戦後の混乱から立ち直り、高度成長へ向かう日本にとって、東京五輪開催は悲願でした。設計者の丹下健三氏が選んだのは、世界に類を見ないワイヤーロープによる「吊り屋根構造」。柱のない広大な空間を創り出すための、前代未聞の試みでした。
着工は大会まで20カ月を切った頃。課題は山積み、夜を徹しての工事が続き、「常識で考えて不可能」と言われた短工期を守り抜きました。

他の模型が完成した姿で並ぶ中、国立屋内総合競技場 主体育館は唯一、施工中の姿まで見ることができますね。

宮田:はい、模型を大きく4分割し、完成までの様子を4段階で見せています。模型の周りを一周することで、施工過程を追体験できる仕組みです。
この模型の制作には生産技術本部を中心とするメンバーが大奮闘しました。60年以上前の資料から情報をつぶさに拾い上げ、クレーン一つ、車両一つ、作業員一人に至るまで、当時の写真や図面から忠実に再現しています。

新CM「変わらぬ眼差し。」篇に描かれた、時代を切り拓いた挑戦の軌跡

宮田:細かく見ていただくと、資材などが乱雑に置かれている箇所があるでしょう。「きれいに見せた方がいいんじゃないの」という声も挙がったのですが、日本中がオリンピックに向かう中、不可能を可能にしようともがいた当時の熱量をそのまま伝えたく、あえてリアルに再現しました。
これを来館者の皆さんにお伝えすると驚かれるのですが、実際の工事に要した時間は19カ月ですが、この模型の制作には調査を含め約2年掛かりました。私たちは施工中の現場を見てはいませんが、「先輩方の残した仕事を忠実に再現したい」という尊敬の念が妥協を許さなかったのです。

WHAT(今、挑み続けること)

3.時を超えて受け継がれる、挑戦のバトン

NOVARE Archives2階から望む旧渋沢邸
NOVARE Archives2階から望む旧渋沢邸

NOVARE Archivesと切っても切り離せない存在が旧渋沢邸です。旧渋沢邸への思いを聞かせてください。

宮田:旧渋沢邸は、渋沢家と清水建設とのご縁を象徴する建築であり、多くの人々の思いによって守り継がれてきた歴史そのものです。
実はこの建物は三度の移築を経ています。そこには「残したい」「未来へ伝えたい」という強い意思がありました。私たちはそのバトンを受け取り、このNOVAREで次の世代へとつないでいます。
渋沢栄一翁ゆかりの建築として注目されることも多いのですが、私たちとしては、その背景にある物語まで知っていただきたいと思っています。なぜこの建物は残されたのか。なぜ多くの人が守り続けようとしたのか。その歩みをたどることで、建設業が時間を超えて思いをつなぐ仕事であることを感じていただけるはずです。※旧渋沢邸を特集した過去記事はこちら https://www.shimz.co.jp/novare/letter/202506.html

2019年の火災により焼失する前の首里城正殿(清水建設施工)
2019年の火災により焼失する前の首里城正殿(清水建設施工)

清水建設は現在、首里城の復興工事にも参画していますね。

宮田:首里城もまた、清水建設の歴史と深く結びついた建築の一つです。戦前の修理工事、平成の復元工事、そして現在進む復興工事と、長い年月をかけて関わらせていただいています。
今回の復興工事が持つ大きな意義は、建物を再建することだけではありません。伝統技術や職人の技を次代へ継承することにもあります。現場には全国から宮大工や職人が集い、若い世代へ技術を伝えながら工事が進められています。首里城を通して、歴史は過去のものではなく、今も受け継がれているものなのだと改めて実感しています。

時を超えて受け継がれる、挑戦のバトン

宮田:現在の企画展示「現代の伝統建築」では、実際に工事で使用されている瓦のサンプルや関連資料も展示しています。「歴史とは過去ではなく、現在であり、未来」というフレーズが展示のプロローグにありますが、過去の建築遺産を守るだけでなく、今まさに未来の歴史となるプロジェクトも記録していく。そうした「歴史の現在進行形」に触れられることも、この施設ならではの価値だと思います。

TO THE FUTURE(未来のために)

4.歴史は、次の挑戦を生み出す

今後、NOVARE Archivesをどのように活用していきたいと思っていますか。館長としての思いを教えてください。

宮田:NOVARE Archivesは、単なる展示施設ではなく、人と人をつなぐコミュニケーションの拠点でありたいと思っています。
現在は、共創活動やビジネスの場としてNOVAREを訪れるお客様にご覧いただくことが中心となっていますが、今後はさらに多様な方々に開かれた場所にしていきたいと考えています。実際に大学の研究室や海外の学生から見学の問い合わせをいただくことも増えており、建築やものづくりに興味を持つ学生の皆さんにとって、ここが未来を考えるきっかけになればうれしいです。
以前、渋沢栄一ファンだという小学生の女の子が来てくれたこともありました。そんな若い世代の姿を見ると、この場所は単に過去を振り返るためだけにあるのではないのだと改めて感じます。
挑戦の歴史は、展示ケースの中に眠るものではありません。
今日の仕事が未来の伝統となるように、先人たちの意志を受け継ぎ、次の時代へ挑み続ける。その循環こそが、NOVARE Archivesが未来へ手渡したい価値だと思っています。

歴史は、次の挑戦を生み出す

〈本記事に登場した作品が登場する、清水建設 新CM「変わらぬ眼差し。」特設サイトはこちら〉

〈note「新しいCMに込めた想いや裏話を」はこちら〉

宮田 幹士(みやた・かんじ)

NOVAREアーカイブス ジェネラルコンダクター、清水建設歴史資料館 館長
1987年清水建設入社。不動産開発部門、経営企画、スマートシティ担当等を経て、2021年4月からコーポレート・コミュニケーション部長として歴史資料館の開設準備を担当。2024年4月より運営開始に伴いNOVAREアーカイブスへ。多様なステークホルダーとの貴重なコミュニケーションの場としての運営を担う。

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