原点と未来が共存する場所 成長する建築「温故創新の森 NOVARE」 原点と未来が共存する場所 成長する建築「温故創新の森 NOVARE」

設計本部 設計企画室
デジタルデザインセンター
デジタルソリューショングループ長

小林 央和

東京大学名誉教授
ホルツストラ一級建築士事務所
取締役

稲山 正弘 氏

NOVARE LETTER
BCS賞受賞記念特別号

原点と未来が共存する場所
成長する建築
「温故創新の森 NOVARE」

このたび、「温故創新の森 NOVARE」が「第66回(2025)BCS賞※」を受賞 しました。
この受賞を記念して、日本建築界を代表する技術者の一人であり、木造建築の発展に多大な貢献をされてきた東京大学名誉教授の稲山正弘先生にお話を伺いました。
BCS賞の意義とNOVAREの建築的価値、そして「温故創新」という理念がもたらす未来について語っていただいています。

※BCS賞とは…一般社団法人日本建設業連合会(Building Contractors Society)により、日本国内の優秀な建築作品に与えられるもの。
詳しくは公式ページ をご覧ください。

聞き手:小林 央和
設計本部 設計企画室 デジタルデザインセンター デジタルソリューショングループ長
NOVAREの意匠設計を担当。

BCS賞が示す、
建築の本質とは?

本日はNOVAREをご見学いただきありがとうございます。
まずは、建築におけるBCS賞の意義と社会的価値について教えていただけますか。

稲山:これまでの建築賞は、主に意匠設計に焦点が当たることが多く、「建築家が優れた作品をつくったから表彰する」という傾向がありました。しかし建物の完成までには意匠以外の構造設備設計も不可欠ですし、施工者と発注者がいてはじめて成り立ちます。
発注者・設計者・施工者、この三者の思いが一体となって評価されるのが、BCS賞の特徴です。
建築家が良いと感じても、発注者が納得していないこともあります。本当に価値ある建築とは、使い手が満足し、誇りを持てる建物であるべきです。
BCS賞は、これに加えて作り手である施工技術者にも焦点があたります。建物の価値をトータルに評価された建築にのみ与えられる、たいへん名誉ある賞だと思います。

BCS賞が示す、建築の本質とは?

先生からご覧になって、NOVAREのどのような点が評価されたとお考えですか?

稲山:一番の特徴は、「実証実験を続ける場」であるという点でしょう。世界的に見ても最新の技術が随所に導入されており、そのスケールと多様性には圧倒されました。
しかも、ただ新しいだけでなく、「温故創新」という精神が全体に息づいている。
目的の異なる5つの建物がそれぞれの価値を発揮しながら、「ひとつの街」のように機能しているのは見事です。
ラボや研修施設を持つ企業は多いですが、NOVAREのようにオフィス・研修施設・ラボ・歴史資料館・有形文化財が同居している例は非常に珍しい。建設を学ぶ学生がここで一日を過ごせば、原点から最先端までを体感的に学ぶことができる。まさに“生きた教材”だと思います。

競争が共創を生む、
イノベーションの源泉

競争が共創を生む、イノベーションの源泉

稲山:見学中にも、共創のアイデアがいくつも浮かびました。たとえば、私が発案し参加している「木造耐力壁ジャパンカップ」(現在は「壁-1グランプリ」)をNOVAREで開催したら面白いだろうと思いました。この大会では、各チームが自分たちで設計した耐力壁(耐震壁)をその場で組み立て、壁同士をジャッキでつないで“綱引き”をします。壊れた後は分別解体を行い、その速さも評価の対象。耐震性だけでなく、施工時間や環境負荷、意匠性など、総合的に競い合うイベントです。

BCS賞が重視する“総合的な価値評価”にも通じますね。

稲山:まさにそうです。この大会を始めたきっかけは、1995年の阪神淡路大震災でした。震災以後、木造の耐震性に注目が集まり、住宅メーカー各社が「自社こそ一番」と主張するようになった。しかし実際の優劣は、競ってみなければ分かりません。技術の真価やコストパフォーマンス、環境負荷などは、現実で比較して初めて見えてくるものです。
実際に開催してみると、やはり負けると悔しいから、みんな創意工夫を重ねて次年度に臨む。その挑戦の連続が、新しい技術を生み出す循環につながります。競争による共創、これもイノベーションの源泉ですね。

「温故創新」の精神が息づく建築

「温故創新」の精神が息づく建築

「温故創新」は、「温故知新」に“創る”という意味を加えた造語です。
本日の見学を通じて、どのように感じられましたか?

稲山:旧渋沢邸とNOVARE Archives(清水建設歴史資料館)は、とても象徴的な存在ですね。清水建設が長い年月をかけて積み重ねてきた歴史と技術が凝縮された空間であり、建設業界にとって大切な財産だと思います。

ありがとうございます。
現代でこそ古い技術ですが、旧渋沢邸の表座敷に使われた建築技術は当時としては革新的なものでした。二代清水喜助が渋沢栄一翁を喜ばせようとした、当時の思いを想像すると心が震えます。

稲山:そう、当時としてはそれが最新技術なんですよね。NOVAREを体感すると「温故」とは古いものに学ぶだけでなく、原点に立ち帰ることなのだとわかります。常識を常識と捉えず、当たり前を当たり前で済ませず、本来の目的を振り返ると、新たな「創新」が生まれてくる。
たとえば、旧渋沢邸に設置された「慈雨(自動火災検知放水システム)」 を見ていて、初期消火の在り方を改めて考えさせられました。スプリンクラーが常識とされる今だからこそ、ドローンによる初期消火など、まったく新しい発想があってもいい。
ぜひ、そうした開発をここNOVAREから生み出してほしいですね。

「温故創新」の精神が息づく建築

慈雨の普及にはまだいろんな課題がありますが、中でも法規制の壁は大きく、乗り越えようと奮闘しているところです。

稲山:日本ではしばしば、法規制が新しい技術の壁になりますね。2019年の建築基準法改正によって木造建築の規制は幾分緩和されましたが、まだまだ「そこまでする必要があるのか?」と思うような厳しい規制があります。
木造建築技術は、日本文化の重要な一部であり、発展の可能性を秘めている。その発展を止めないためにも、NOVAREのような実証の場で、科学的な根拠に基づく規制緩和の議論とイノベーションが進むことを期待しています。

NOVAREは未完成。
だからこそ、
創造力を掻き立てる。

NOVAREは未完成。だからこそ、創造力を掻き立てる。

稲山:NOVAREは“完成された作品”ではなく、“成長していく建物”ですね。あえて天井を貼らず、アンカーを自由に打てる空間など、設計の余白に創造力を刺激されます。
完全に整った環境よりも、自ら工夫できる余地がある方がずっと面白い。10年後、この施設がどう進化しているのか、とても楽しみです。

私たちも、竣工時が完成ではなく、NOVAREが森のように成長していくことを理想としています。

稲山:素晴らしい考え方だと思います。
「成長していく」という視点で言えば、日本はもっとリノベーション技術の発展に力を注ぐべきだと思っています。環境負荷や資材高騰によって需要が高まる一方、日本は欧米諸国に比べてリノベーション技術があまり進んでいません。

旧渋沢邸にも古い木材を再利用した形跡がありますし、本来は日本にもあった文化ですよね。

稲山:その通りです。重要文化財も解体修理をすると別の建物で使われていた木材が桔木(はねぎ)になっていたりします。高度経済成長期を経てスクラップアンドビルドに移行してしまいましたが、もう一度原点に立ち戻れば、建設もリサイクルに焦点を当てるべき時がきていると思います。
また、木材の中には、100年以上かけて育つものもあります。その木の生命を受け継ぐ私たちも、100年使い続けることで敬意を表したい。NOVAREから、“建物が成長する文化”が広がることを願っています。

NOVAREへの
期待とメッセージ

NOVAREへの期待とメッセージ

本日は本当にありがとうございました。最後に、NOVAREへメッセージをいただけますか?

稲山:「温故創新」に込められた“原点に立ち返って新しい価値を創造する”、という意思を強く感じました。イノベーションには規制の壁が立ちはだかることが多いのですが、NOVAREはそれを打ち破る起点になり得る。
そして何より、建設業の魅力は「ハード」を持っていることです。IT業界が仮想空間で未来を描く一方、建設は現実の空間で未来を形づくることができる。NOVAREならば、ハードとソフトの融合によって、社会が本当に求める価値を生み出していけると思います。
…なんて、他人事ではなく(笑)、ぜひ私もこの共創の輪に加わりたいと、心から思いました。

NOVAREへの期待とメッセージ

稲山 正弘(いなやま・まさひろ)

1958年愛知県生まれ。東京大学名誉教授/(株)ホルツストラ一級建築士事務所取締役/中大規模木造プレカット技術協会代表理事

【著書】「中大規模木造建築物の構造設計の手引き(彰国社)」
【受賞歴】日本建築学会賞(2002年、技術)、松井源吾賞(2002年)、杉山英男賞(2006年)、JSCA賞(2009年)、日本建築士連合会優秀賞(2013年)、日本建築仕上学会賞(作品賞・建築部門、2014年)、BCS賞(2016年)、日本建築学会教育賞(教育貢献、2019年)、日本建築学会作品選奨(2023年)、石膏ボード賞(建築賞、2024年)、iF DESIGN AWARD(2025年)など

BCS賞受賞記念 『新建築』
プレゼントのご案内

日頃のご愛読への感謝を込めて、
建築専門誌 新建築 2024年 11月別冊
『清水建設220周年 温故創新の森NOVAREとその目指す社会』を、
抽選で 10名さま にプレゼントいたします。
建築に携わる方々だけでなく、デザインや都市空間に関心をお持ちの
みなさまにもぜひ手に取っていただきたい一冊です。
この機会にぜひご感想をお寄せいただき、ご応募ください。

応募期間 11/28〜12/12 まで

BCS賞受賞記念 『新建築』プレゼントのご案内

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