木の可能性を探る

木の可能性を探る Vol.48 施工が速く断熱性に優れた建材『CLT』のこれから

2016年5月13日

Vol.48  施工が速く断熱性に優れた建材『CLT』のこれから

2010年10月1日、木材利用の確保を通じた林業の持続的かつ健全な発展を図り、森林の適正な整備を目指した「木材利用促進法」が施行されました。同法律では、耐火要求のない低層の公共建築物については、原則として木造化の検討が求められており、今後、民間建築物への波及効果が期待されています。そこで、新たな建築木材として昨今注目されている「CLT(Cross Laminated Timber)」に詳しい、一般社団法人日本CLT協会の宮竹靖さんにCLTの特性や海外での利用状況などについて話を伺いました。

ひき板を直行積層するCLTは優れた特性を持つ

一口に建築木材といっても、板から作られるもの、かつらむきにした単板や木片を直交または平行に積層して作られたもの、ハードボードのようにファイバー(繊維)から作られるものなどさまざまです。その中で今注目されているのが、ひき板を直交に張った木質材料、CLTです。ちなみに、CLTがひき板を直交に張るのに対して、平行に張ったものが集成材、かつらむきした単板を平行に張った単板積層材がLVL(Laminated Veneer Lumber)、直交に張ったものが合板となります。

CLT は、ラミナ(直交集成板を構成する最小単位のひき板)を並べて接着加工し、それに再び直交する方向に板を並べ接着加工することを繰り返して製造されます。部材としては、以下の4つの特性があります。

宮竹 靖氏
宮竹 靖氏
各種再構成材料の原料と繊維配向(独)森林総合研究所 宮竹チーム長、国土交通省国土技術政策総合研究所 中川貴文主任研究官作成
各種再構成材料の原料と繊維配向
(独)森林総合研究所 宮竹チーム長、国土交通省国土技術政策総合研究所 中川貴文主任研究官作成

(1)幅や厚みの異なる木の板を有効活用できる

これは板を並べるため、同じ幅である必要がないからですが、まだCLTの活用が発展途上である日本においては、現状、同じ幅の板を使って製造しています。

(2)高い寸法安定性が得られる

木材はストローを束ねたような構造になっていて、水が入ると断面が太くなりますが、CLTは直交積層なので寸法安定性が増します。

(3)高い断熱性、遮音性、耐火性を有する

木材は空気層が多いのが特長です。特にCLTは50mm~250mmの厚みがあるので、他の材料と比べても断熱、遮音、耐火の点で非常に有効性が高いといえます。

(4)大判パネルを使うことで高い耐震性を有する

木材は鉄と比べて接合効率があまりよくないのですが、大判パネルの使用で剛性が高くなり、地震の力にも対抗できるようになります。

>CLT:Cross Laminated Timber
クロス・ラミネイティド・ティンバー

CLT:Cross Laminated Timber(クロス・ラミネイティド・ティンバー)
ひき板の層を各層で互いに直交するように積層接着したパネル及び、それを用いた構法を示す用語

施工が速く安全にでき、接合もシンプル

CLTを用いた構法もCLTと呼ばれています。では、構法としてのCLTにも以下の特長があります

(1)優れた断熱性、耐火性、遮音性をCLTだけで実現

先程、材料としてのCLTの特性で挙げたことと同じです。木材の熱伝導率はコンクリートの約12分の1、鉄の1,000分の1。その木材の分厚いかたまりがCTLです。従来、建築物は壁に断熱材を入れて耐火被覆というように、それぞれ役割を持った材料を組み立てるものです。しかし、CLTはそれ単体で断熱性、耐火性、遮音性を実現できるため、コスト面はもとより、工程面で非常に効率的だとして、海外では高く評価されています。

(独)森林総合研究所 宮竹チーム長作成資料より抜粋
(独)森林総合研究所 宮竹チーム長作成資料より抜粋

(2)施工が速い

CLTは大きなパネルを工場でプレファブ化して現場で施工します。開口部分、配管部分、設備部分など、各部に必要な形状にプレカットした状態で搬入するので、現場ではめ込むだけで済みます。喩えればプラモデルのようなもので、大工さんやとび職さんといった熟練工も不要です。しかも施工が速く、安全で、現場での残材の発生が少ないのも特長です。

大きなパネルをプレファブ化して現場で施工
大きなパネルをプレファブ化して現場で施工

(3)接合部がシンプルである

CLTは1990年代半ばに欧州で開発された構法で、欧州ではCLTを用いることで6階建ての建物がビスと金具だけで接合されています。日本の場合は地震が多いため、引きボルトを入れますが、基本的な考え方は同じで、金物が非常にシンプルです。

接合具金物が簡易
接合具金物が簡易

施工が速く安全にでき、接合もシンプル

現在、海外では6~10階建てのマンションをはじめ、一般的な住宅、中・大規模の商業施設、工業施設まで、さまざまな用途の建物にCLTが使われています。とはいえ、ヨーロッパでは積極的にCLTの使用を推進しているわけではありません。実際、木材は水に濡れると膨張して狂いが生じ、腐りの原因にもなることから、海外ではあまり木造建築を目にしません。基本的には別の外装材で木材を覆い、外側になるべく木を見せないよう施工されています。言い換えれば、木材を表に見せるというよりも、部材や構法の特性を生かした使い方に主眼が置かれているのが海外でのCLTの使い方です。

例えば、ウイーン(オーストリア)郊外に2012年秋にオープンした大型のショッピングセンターでは、CLTパネル8,000m3、集成材3,500m3の計11,500m3の木材が利用されています。しかし、1階と2階部分の構造は鉄とRCでつくられていて、木材が使われているのは屋根の部分です。つまり鉄やRCに比べて軽量な木材を、床よりも屋根やパネルに向いた材料として捉え、適材適所に利用した好例といえます。

もう1つ、施工性の良さを活かした例として山小屋があります。山小屋をつくるために現場まで材料を運ぶには大きな労力を要します。その点、CLTは軽量なのでパネルをヘリコプターで運べます。しかもプレカットされているので、ヘリコプターを使ってそのまま組み立てることができ、CLTの特性が大いに活せます。さらに、集成材の柱を作ってフレームを組み、床部分にCLTを使うなど、混構造な使い方もあります。このように、今後は日本でもCLTの特性を活かした使い方が増えてくると思います。

海外での施工の様子
海外での施工の様子

海外での施工の様子

CLTは加工性もよく、非構造の用途にも適している

日本国内でのCLT構造建築物は、2014年3月に完成した高知おおとよ製材株式会社の社員寮が最初のものです。その後、地元産の木材を使った福島県内の共同住宅2棟、北海道のカラマツを使用したセミナーハウスなどが建てられています。また、展示場や倉庫、モデルハウス、仮設の店舗、バス停なども作られています。

例えば、ウイーン(オーストリア)郊外に2012年秋にオープンした大型のショッピングセンターでは、CLTパネル8,000m3、集成材3,500m3の計11,500m3の木材が利用されています。しかし、1階と2階部分の構造は鉄とRCでつくられていて、木材が使われているのは屋根の部分です。つまり鉄やRCに比べて軽量な木材を、床よりも屋根やパネルに向いた材料として捉え、適材適所に利用した好例といえます。

これに加えて非構造の用途の拡大も不可欠です。CLTは大きな板を作れ、現在は材料に主にスギを使っているので加工しやすく、すでに本棚、パーティション、テーブルや家具類、おもちゃなどに利用されています。このようにさまざまな分野で利用され、身近な材料となるよう、今後、さらにCLTの普及に力を入れていきたいと考えています。

高知おおとよ製材株式会社社員寮
高知おおとよ製材株式会社社員寮
バス停(岡山県・真庭市役所前)
バス停(岡山県・真庭市役所前)

一般社団法人日本CLT協会とは

一般社団法人日本CLT協会は、CLTを建築構造材として使用できるようにすること、また、将来的にはCLTを用いた中層や大規模の建築を可能にすることを目的として、2012年1月に設立されました。2014年4月からは「一般社団法人」となり活動しています。宮竹さんが勤務する銘建工業が同協会の会長企業を務めています。

宮竹さんによると、銘建工業ではCLTの国内普及に向けて、新たなCLT量産工場の整備を進めているとのこと。同工場の最大生産量は年間50,000m3、予定生産量は年間30,000m3を予定しているそうです。できあがるCLTの最大サイズは幅3,000×厚さ300×長さ12,000mmです。

CLTの非構造用途例

パーティション
パーティション
本棚
本棚
家具
家具
おもちゃ
おもちゃ