人と技術のいい関係2023.06.13

一夜で歩行者デッキを
架けろ。

4月23日日曜日の未明、神谷町駅からほど近い桜田通り(国道1号)を跨ぐ歩行者デッキが一気に架設された。この一夜城作戦の実現に至るまでに重ねてきた計画検討と当日の様子について、担当者に聞いた。

―架設された歩行者デッキの概要を教えてください。

佐々木:桜田通り上に一括架設した歩行者デッキの全長は36m、重量56t。麻布台ヒルズのC-2街区と、道路を挟んで向かい側のオランダヒルズ森タワーを繋ぎます。

―一晩で架設されたそうですね。

佐々木:4月22日土曜日の20時から、桜田通りの一部車線を規制して、歩行者デッキを吊り上げる400t吊り大型クレーンの組み立て準備からスタートしました。クレーンの組み立てが完了し、桁を吊り上げてからわずか1時間程度、桜田通りを一時全面通行止めにして一括架設を行いました。

―なぜその時間帯になったのですか?

佐々木:桜田通りは非常に交通量の多い幹線道路です。警察との協議で「全面通行止めは、一番交通量の少ない時間帯に実施する」ことになり、交通量調査の結果、「最も交通量が少ない日曜日の未明」に決まりました。

―今回の歩行者デッキ架設工事の前に、古い歩道橋の撤去工事を行ったそうですね。

佐々木:元々あった歩道橋は、再開発区域に新しくできる区道との交差点に干渉するため、昨年8月に撤去しました。同じく日曜日の未明に桜田通りを一時全面通行止めにして一括撤去しました。今回もガードマンは歩道橋撤去と同じメンバーで道路規制を行ったため、一時全面通行止めがスムーズにいきました。撤去した歩道橋は、昭和43年に架設された古い歩道橋で、資料は手書きの図面のみで、一括撤去の準備は歩道橋の重量算出から始めました。歩道橋を吊り上げるクレーンのサイズを決めるためです。また、使用するクレーンを小型化するために、通路部のアスファルトとコンクリートを先に剥がすことで歩道橋を軽量化し、150tクレーンで撤去しました。とにかく短い時間で一括撤去を終えるために、細かいところまで確認をしながら準備を進めました。たとえば、橋脚との接続ボルトが錆びて取り外せないことがないように、事前にボルトを全て新品に取り換えたほどです。

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古い歩道橋の撤去工事の様子

―一括架設に向けて、どのような準備を行いましたか?

佐々木:今回は民間のビル2棟をつなぐ歩行者デッキで、歩道はインフラの埋設物が多いので、橋脚は民間の敷地内に立てる設計でした。まずは、橋脚を支える基礎杭を施工するのに、歩行者や道路への影響を抑えられるよう、できる限り施工ヤードを狭くすることを考えました。そこで、当社の基盤技術部と打合せを行い、コンパクトな施工ヤードでも施工できる回転杭を採用しました。さらに、都市部では想定外の埋設物も多く、杭が想定外の埋設物にぶつかると、工事が中断してしまうため、事前にレーダーで地中探査をしてから杭を打設して、その上に橋脚を構築しました。

古屋:麻布台ヒルズ側に設置した橋脚は、デッキと橋脚を溶接で一体化した「ラーメン構造(剛接合)」です。一方、オランダヒルズ森タワー側は、橋脚に設置した支承上にデッキを載せる構造となります。これは「可動支承」という仕組みで、地震時にデッキの水平方向の動きを吸収します。用地が狭いオランダヒルズ森タワー側を可動支承とすることで、橋脚をコンパクトにすることが可能となっています。施工的には、麻布台ヒルズ側だけ固定すればよいので、一括架設で位置調整がしやすいというメリットもあります。

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オランダヒルズ側の回転杭の施工
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麻布台ヒルズ側の橋脚

―今回の一括架設の難しさについて教えてください。

佐々木:オランダヒルズ森タワーは軒が迫り出しているので、単純にクレーンでデッキを吊り上げて上から落とし込む架設ができません。軒を避けて斜めから挿入することになるので、短時間で作業を終わらせるために、クレーンと合図者の緊密な連携と人手による挿入角度の調整が必要になります。どこにクレーンと作業員を配置して、どのような高さで、どのように歩行者デッキの旋回をするのか、繰り返し勉強会を開催し、詳細にシミュレーションしました。3Dの施工アニメーションや3Dプリンタで作成した模型は、共通理解の促進にとても役立ちました。

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架設工事のシミュレーション
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3Dプリンタで作成した模型

―デッキは架設前に現場で地組みされているそうですね。

佐々木:はい。工場で仮組み検査した後、輸送可能なサイズに三分割して夜間に搬入しました。再開発区域内で1つにつなげてから接続部を鋼材で覆い、塗装仕上げを施しました。また、工事の音をできる限り抑えられるようにしました。工具はハンマーではなく油圧式の音の小さなものを使いましたし、古い歩道橋を撤去したときもアスファルトを剥がすのに、音の大きなブレーカーではなく、穴を開けて広げるスプレッダーという機械を使用しました。

古屋:再開発地域内で事前にデッキを地組みしてから架設したのは良い判断だったなと思います。一括架設の時間帯を含め、桜田通りの交通に最も影響しない方法だったと思います。

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―デッキ自体の特徴を教えてください。

佐々木:構造上重要な部材の周囲を、デザイン性のある鋼材で密閉したデッキなので、メンテナンスの回数が少ない構造になっています。また、鋼材の塗装を6層で行い、丁寧に仕上げています。

古屋:デッキの中央は両端よりも約40cm反り上がっています。とても緩やかなアーチ状になっているのが特徴です。両側のビルの2階に連結するデッキの両端は高さが決まっているため、国道上にメンテナンス用の吊り足場を設置しても、車両が通行できる空間を確保するのに、このような形状になっています。デッキにもいろいろな工夫が施されています。

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歩道デッキ断面図

―一括架設の流れを教えてください。

佐々木:4月22日土曜日は20時から、麻布台ヒルズ側になる桜田通り上り3車線の車線を規制。地下には日比谷線が運行しているので、400tクレーンの据付は日比谷線への影響がない位置に行い、重量も分散するように、通常より大きな鉄板を敷き詰めて、道路を養生しました。日付が変わる頃にクレーンの組み立てが始まり、クレーンの組み立てが完了したあとに、歩行者デッキを敷地内で少し吊り上げてバランスを確認しました。いよいよ桜田通りを全線通行止めにして、デッキを敷地外に吊り出し、左に旋回させて道路と直交方向に向きを変えて所定の位置に吊り込み、ボルト固定しました。通行止めを解除した頃には空が白けていましたね。一夜のために行ったこれまでの入念な準備と作業者全員の協力の甲斐あって、無事に一括架設することができました。

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―プロジェクトを終えた今の心境は?

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佐々木:事故もなく終えられてホッとしています。架設を終えるまでは何か見落としがないかずっと考えていました。シミズには様々な専門部署があるので、工事計画を社内展開すると、それぞれの専門家から意見がもらえます。一人では気づかなかったことが沢山ありました。また、デッキを地組みするスペースの工程調整も大変でした。地組みスペースを確保できる時期によって、一括架設の実施日が決まります。また、スペースを確保できても、時期によってはデッキの組み立て作業がC-2街区の施工に影響するからです。

古屋:今回、歩行者デッキの製作・施工を清水建設グループの日本ファブテックに依頼しています。日本ファブテックには、今回のデッキ架設後に施工される階段部や舗装などの重量を見越して、中央部が少し(23mm)反り上がった形状の桁を製作してもらいました。今後、施工が進むことで計画していた高さまで下がる予定です。精度の高い製作あってこその施工であったと感じています。他の現場で一括架設を技術検討しているので、ここで学んだことを活かしていきたいと思います。

一夜で出現し、周囲の景観を一変させた歩行者デッキ。そこに至るまでには長い時間をかけた周到な計画や準備があった。交通への影響を最小化できる「一括架設」は、都市土木に欠かせない工法だ。

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Profile

佐々木 章雄

麻布台ヒルズ(虎ノ門・麻布台プロジェクト)

土木工区 主任

入社年:2008年

主な業務:新設歩行者デッキ工事

Profile

古屋 卓稔

土木技術本部 橋梁統括部

主査

入社年:2020年

主な業務:デッキ設計・施工計画