技術と共創でつなぐ、建設業界の「魂」 技術と共創でつなぐ、建設業界の「魂」

KDDI株式会社 ビジネス事業本部
ビジネスデザイン本部 営業4部長
(取材当時)

岡本 真樹 氏

土木東京支店 生産推進部
ICT推進グループ 主査

小野澤 龍介

NOVARE LETTER
特別対談

技術と共創でつなぐ、
建設業界の「魂」

ABOUT STORY

AIやドローンといった新たな技術が、現場に入り始めている。
その導入は単なる利便性の向上にとどまらない。そこには、現場の課題を解決し、人の働き方を変えるという明確な目的がある。

今回のNOVARE LETTERでは、清水建設 小野澤(土木東京支店生産推進部 ICT推進グループとNOVARE ベンチャービジネスユニット(VBU)を兼務)にインタビューを行い、イノベーションや技術伝承にかける思いの源泉に迫る。
後半では、プロジェクトを共に推進したKDDI株式会社岡本氏(ビジネスデザイン本部 営業4部長 ※2026年3月取材当時)との対談を通じて、共創の実像を紐解く。

ORIGIN

1.NOVARE DLZ
立ち上げメンバーとして

NOVARE DLZ立ち上げメンバーとして

現在、清水建設の土木東京支店とNOVAREを兼務する小野澤。
部署や社外の垣根を越え、自ら関係性を切り拓くその動きは、社内でも広く知られている。

小野澤:清水建設にキャリア入社したのは、2014年のこと。土木技術本部に所属し、陸前高田の震災復興現場を担当後、外環大泉建設所へ着任。この時、DXの先駆けとして三次元データ、VR、アバターなどのテクノロジーを連携させ、新たな課題解決への扉を開けた経験が、私にとっての転機となりました。そこで得たのは「これならいける」という確信。これらの要素技術は既に存在していましたが、実際の現場での活用は「初」と言えるものだったのです。

2023年からはデジタルを活用した施工管理を学ぶ新たな研修ゾーン「NOVARE Digital Learning Zone (DLZ)」の立ち上げメンバーとして参画。小野澤から見たNOVAREとは、どんな存在なのか?

NOVARE Digital Learning Zone (DLZ)

小野澤:NOVAREは、技術を伝え、育み、実証実験を行う場です。NOVAREが設立されるまでは、各部門が個別に現地で技術を試行・実用化していたため、成功事例は各部門内で限定的に共有されるに留まっていました。この状況に対し、「このままじゃあかん」という危機感から、DLZワーキング(NOVARE Academyで毎月開催される定例会)を発足させました。このワーキングの目的は、土木、建築、技術研究所、生産技術本部など、組織横断で各部門の最新テクノロジー活用事例を共有することです。
また、ここで紹介された新しいテクノロジーは、NOVARE Academyで実際に試行錯誤(トライ&エラー)することが可能です。有効だと判断されたテクノロジーは、現場での導入へと繋がる。これにより、最新技術の現場への導入スピードが向上しただけでなく、各現場のニーズをタイムリーに把握できるようになりました。
NOVAREは、組織の壁や社内外の概念にとらわれず利用できる「オープンイノベーションの場」。NOVAREを介した双方向のコミュニケーションが、組織全体の技術革新を促進しています。

WHY(なぜ、取り組むのか)

2.人生を幸せにするための
「技術伝承」

小野澤が一貫して持ち続ける個人ビジョンのひとつに「技術伝承」がある。
なぜ、技術伝承なのか。なぜ、伝え続けたいのか。

小野澤:根幹にあるのは、「もう二度と、死亡事故を起こしたくない」という想いです。建設業界全体における死亡事故は年々減少していますが、「0」ではありません。私自身、前職を含めその現実に直面してきました。それを「仕方のないこと」と片付けず、ゼロが当たり前の世の中にしたいんです。
では、ゼロにするためにはどうすればいいのか。その答えが技術伝承であり、テクノロジーです。「昭和や平成に積み重ねた歴史・大先輩たちの経験値」をしっかりと受け継ぎ、そのインプットを当たり前にすること。まさにNOVAREのコンセプトである「温故創新」です。「背中を見て学べ!」という前時代的なやり方ではなく、テクノロジーを用いた安全で効率的な伝承により、未来の技術者のスタート地点が変わります。
当事者である従業員だけでなく、その家族や関わるすべての人の人生を幸せにするために。技術を伝え続けることが私の使命です。

人生を幸せにするための「技術伝承」

小野澤が未来に実現したい技術として「イタコシステム」と呼ぶ構想がある。これは、熟練技術者の技能や判断をAIに継承させる仕組みだ。

小野澤:「イタコシステム」とは、チームの中心となる求心力を持った熟練技術者の知見や五感をデータ化し、AIに学習させて現場指導に活用する構想です。技術だけでなく、その人の判断基準や価値観といった「人格」まで再現することが最も重要だと思っています。
例えば若手が「明日の仕事に関連する現場実績を移動の30分間で教えて」と聞いたとする。それに対してAI小野澤が「しゃあないな、教えたるわ!」と関西弁で話し出す。
デジタルに熟練者の魂が宿ること、これを私は「イタコ」と呼んでいますが、そうすることで、情報は単なるデータではなく、「想い」に変わっていくと思うんです。
私が取り組んでいることは、そんな想いを束ねた「建設業界における魂(たましい)の継承」なのかもしれません。魂とは、先人たちが積み重ねた技術やノウハウ、そして熱き想いです。たとえこの先、自分の命が尽きたとしても、技術伝承によって魂は残り、だれかの命を守ることにつながります。

HOW(どうやって、実現するのか)

3.友達100人大作戦

大きな挑戦の前には、いつも壁が立ちはだかる。最新技術を導入する予算がない。多忙な現場で新たな技術を試すことへの抵抗感もある。これらの課題をどう乗り越えてきたのか。

小野澤:私は、部署や会社の壁を越えて、志を共有する仲間を一人ずつ増やしていく取り組みを実践していて、これを「友達100人大作戦」と名付けています。土木や建築という垣根を越えて、技術研究所、NOVARE、パートナー企業など、さまざまな立場の人たちと力を合わせて挑戦していきたいと考えています。
たとえ最初は一人でも、予算がなくても、地道に働きかけて仲間をつくっていく。そうして得た仲間と多角的な視点で意見を出し合うことで、大きな力が生まれます。一人では到達できない高みを、みんなで目指せるのです。

友達100人大作戦 3

桁外れのコミュニケーション力を持つ小野澤。その秘訣とは?

小野澤:相手の背景や立場まで深く想像しながら会話することです。その上で、相手を尊重しつつも率直に本音で語り合う。この両立こそが、信頼関係を築く鍵だと考えています。
私のバイブルは、ビジネス漫画「サラリーマン金太郎」です。型破りな行動力で企業組織のしがらみを打破し、道を切り拓いていく彼の姿勢に共感しています。いつか「AIサラリーマン金太郎」と呼ばれるような、既成概念にとらわれない存在になりたいですね。
私が働く理由は、自分のキャリアを守るためではなく、関わる人たちの人生を幸せにするためです。だからこそ、捨て身で挑戦できるのかもしれません。「黙認は容認」だと肝に命じ、正直者が馬鹿を見ない組織を目指し続けます。

WHAT(何をするのか)

4.組織をも変える、
共創のはじまり

組織をも変える、共創のはじまり

au Starlink Stationを用いた山岳トンネル坑内の通信環境、それに伴うドローンを活用した遠隔巡回、ロボット犬によるトンネル坑内の3Dスキャンなど、イノベーションを生み出してきた小野澤とKDDI岡本氏。二人の出会いとは?

岡本:KDDIでは、2022年度の中期経営戦略以降、法人ビジネスにおいて「お客さまの本業に貢献する」という考え方が明確に打ち出されました。しかし当初は建設業界における提案材料が不足していたんです。現場の実情に即した技術導入を進めた結果、ドローンやStarlink、点群データの圧縮技術など、徐々に現場へ貢献できるアセットを持てるようになっていきました。
小野澤さんに出会ったのはそんな頃でしたが、当初はKDDI社内で各部門や関連会社が個別に小野澤さんに営業活動を行っていました。清水建設様からすればKDDIという一つの組織であるにもかかわらず、打ち合わせ日程調整や提案内容の精査において、かなりのご負担をおかけしていました。
そんな時に小野澤さんから「サービスごとにバラバラに提案するのではなく、KDDIとしてまとめて提案すべき」と愛ある指摘をいただいて、目が覚める思いでした。

小野澤:各担当者が自部門のサービスのみを提案しているように感じられ、非常に残念でした。エンドユーザの視点では、複数のサービスを組み合わせることで、従来の課題を解決する画期的な可能性を秘めているにもかかわらず、私たちの真の課題にコミットできていない状況でした。その背景にある組織の状況も想像できたからこそ、ぜひ改善してほしいと強く願っていたんです。

KDDI岡本氏

岡本:その言葉に衝撃を受け、すぐに社内で「KDDI建設コンソーシアム」と名付けた部門横断のバーチャル組織を立ち上げました。
まずはドローンやStarlinkなど複数部門のメンバーと個別に話し、「建設業界のみなさんに貢献したい。だから部門を横断して、サービスを組み合わせて新しいバリューを生もう。単なるモノ売りをやめよう。」と呼びかけました。全員が合意したところで50人規模の決起集会を開催。
今では、このKDDI建設コンソーシアムが部門のみならず子会社を越境する建設業界の課題解決部隊として機能しています。
小野澤さんとの共創は北海道渡島トンネルでのau Starlink Station導入が初の案件ではありますが、KDDI社内での変革を促進してくれたという意味ではもっと前からはじまっていたんですよね。小野澤さんの一言をきっかけに「友達100人大作戦」が伝播して、私の友達もものすごく増えました。

小野澤:ほんとに岡本さんの行動力はすごいですよ。その後、岡本さんとは毎月定例MTGを行って、中長期視点でお互いのロードマップを擦り合わせていきました。

KDDI岡本氏、小野澤

5.国内初。Starlinkを活用し、
建設中トンネル坑内の通信エリア化を実現

2024年7月、北海道新幹線 渡島トンネルにおいて通信エリア化を実現した両社。
このプロジェクトの概要とは。

北海道新幹線 渡島トンネル

小野澤:建設現場の人手不足は業界全体の課題であり、その解決には建設DXが不可欠です。しかし、建設DXの実現には安定したデータ通信が重要であるにもかかわらず、山岳部では電波状況が悪く、トンネル内では通信環境の確保が困難な状況でした。
もし通信があれば、3D点群データのリアルタイム伝送が可能になり、品質や進捗管理、安全性の向上につながります。
この通信課題に対し、KDDIにご相談したところ、au Starlink Stationの提案をいただきました。au Starlink Stationによって通信環境が劇的に改善されたことで、ドローンや四足歩行ロボットといった先進技術がつながり​、その活用が可能となったことで、建設DXの実現へと大きく前進しました。

国内初。Starlinkを活用し、建設中トンネル坑内の通信エリア化を実現

岡本:私ははじめて渡島トンネルを訪れた時、心が揺さぶられたんですよ。こんなところに、こんな規模のものを人がつくれるのかって。
例えば道がなければ自由に往来できないし、ダムがなければ存在しない街がある。現場を見ることで建設業界のみなさんへの尊敬と「役に立ちたい」という使命感が増しました。

小野澤:どれだけ新しい技術でも、現場にメリットがなければ継続して導入するつもりはなかったんです。しかし実際に現場に行ってみて、 通信がないために人がやらなければならない、危険な場所での作業があることが見えてきました。
それをロボット犬やドローンなどに任せられれば、人はより安全に価値のある仕事に集中できる。であれば導入する価値がある。
ただし、初期導入の負担を現場に押し付けることはできません。だからこそ、スケールメリットも含めて一緒に考えてほしいし、KDDI側にも価値が生まれる形で共創していこう、という形で議論が発展していきました。

KDDI岡本氏、小野澤

TO THE FUTURE

6.陸・海・空に知能を入れて
職人さんを助けたい

小野澤の活躍フィールドは、陸だけにとどまらない。

陸・海・空に知能を入れて職人を助けたい

小野澤:私が目指しているのは、陸・海・空すべての領域で新しい技術を活用して職人さんを支援することです。
たとえば陸上では4足歩行ロボット、空ではドローン、海中では水中ヒューマノイドといった技術が既に実用化されています。可能性はこれからもっと広がっていきます。
それには、個別の領域や単一のプロジェクトだけに注目していては不十分だと考えています。
それぞれの領域を横断し、地球規模で技術を展開していく。そんな大きなスケールに挑戦したいんです。

岡本:ぜひその夢を共創していきたいです。AIが急速に進化する中で、何が正解なのか、未来を生きる子どもたちに何を教えられるのか、私も自問自答を繰り返しています。
だからこそ、手探りながらも「通信」を基盤にAIを現場に実装していくことが私にとっての社会貢献です。
わからないからこそ、やるしかない。このポジティブな行動力は、小野澤さんの影響かもしれませんね。笑

7.建設業界の「魂」を継承する

建設業界の「魂」を継承する

小野澤:私にとっての命題は、「建設業界の魂を継承する」ことですが、今回岡本さんと話して、私が踏み出す「挑戦への一歩」が他の方々にも影響を与え、新たな命題を生み出す喜びを感じました。
結局、一人じゃ何もできないんですよ。だから、ちゃんとつながって、ちゃんと遺(のこ)していきたい。私たちがいなくなっても、安心で安全な現場が10年後、50年後、100年後も続くように。
そのために、今日という1日も挑み続けます。

参考1:ニュースリリース「au Starlink Stationとドローンポートを活用した山岳トンネルの遠隔巡回実証に成功

参考2:YouTube「【山間部に通備エリア構築】トンネル期削現場の安全性と生産性の向上にドローンを活用」

小野澤 龍介(おのざわ・りゅうすけ)

清水建設株式会社 土木東京支店 生産推進部 ICT推進グループ 主査/NOVARE ベンチャービジネスユニット コンダクター(兼務)。
2014年に清水建設へキャリア入社。震災復興事業に従事し、三次元データやVRなどのデジタル技術を現場で活用した経験を起点に、ICT・DX領域へと活動を広げる。現在は、NOVARE Digital Learning Zone(DLZ)の立ち上げメンバーとして、技術伝承と現場実装をつなぐ取り組みを推進。部署や会社の枠を越えた「友達100人大作戦」を軸に、建設業界における技術と魂の継承に取り組んでいる。

岡本 真樹 氏(おかもと・まさしげ)

KDDIアイレット株式会社 執行役員 AI・クラウドセールス本部 本部長 アカウントセールス部 部長
(2026年3月取材当時:KDDI株式会社 ビジネス事業本部 ビジネスデザイン本部 営業4部長)
建設業界を担当し、スーパーゼネコンを含む大手企業に対して営業活動を行う。モバイル通信やネットワークに加え、Starlink、ドローン、3D点群データ圧縮技術などを組み合わせた提案を推進。部門横断のバーチャル組織を立ち上げ、KDDIグループ全体での営業体制を強化。クライアントとともに考え行動することで、現場視点での課題解決とDX推進に取り組んでいる。

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