「未来の建設業を担う人財を育成する」ことを目的に開設したNOVARE Academy(ものづくり至誠塾)
。
2023年の開設から、研修受講者は9,000人を超えた。
今回はNOVARE Academyの塾長を務める浜田にインタビューを行い、「ものづくり」の本質に迫る。
1.
NOVARE Academyが
掲げる「五現(原)主義」
三現主義とは、机上の空論ではなく、実際に“現場”で“現物”を観察し、“現実”を認識した上で問題解決を図るという考え方のこと。NOVARE Academyではこれに、「原理」「原則」を加えた「五現(原)主義」を重要視している。これに込めた想いとは?

浜田:まず、三現主義というのは、建設業に関わる人ならば誰もが聞いたことのある言葉だと思います。私も施工管理者として若手の頃からその重要性を実感してきました。
バブルの頃は職人が全然足りず、仕方なく自分たちで職人の代わりに鉄筋を組んだり、墨出しをしたこともありました。しかしその結果はみじめなもので、多くは使い物にならずにやり直しになったり、あまりの辛さに途中で投げ出したりと、かえって仕事の足を引っ張ってしまいました。はたから見ていると簡単そうですが、「見るのとやるのは大違い」。実際に自分でやってみるととても難しく、思うようにいきません。また、それを一日中黙々と続けることがどれだけ大変なことか、実際に体験してみないとわからないのです。
そんな実体験と職人に対する敬意があったからこそ、より深く技術を理解したい、もっといろんな現場を知りたい、という思いは強く持ち続けてきました。この好奇心が原動力となり、三現主義に「原理」「原則」を加えた「五現(原)主義」が私の人生の指標となりました。
その技術の生まれた背景、歴史を知ることでより深い理解ができ、その技術への深い理解が指示をする言葉の端々に表れて、説得力のある管理ができるのだと思っています。

2.
「このままではいけない」
日本のものづくりに抱く
危機感
NOVARE Academy立ち上げの背景には、浜田が感じる「日本のものづくり」への危機意識がある。
浜田:今でこそ “Made in Japan” は高品質の代名詞ですが、私たちが子どもの頃は、必ずしもそうではありませんでした。
その評価を築き上げたのが、団塊の世代を中心とした先輩方です。死にものぐるいで仕事に向き合い、品質管理を徹底し、その積み重ねが今の日本の信頼をつくった。ところが私たちの世代になってから、さまざまな業態で品質トラブルや偽装問題が頻発するようになりました。これにはさまざまな要因がありますが、一つは、技術に対する本質的な理解や、職人への敬意が薄れてきていることが挙げられます。
あらゆる仕事が自動化し、便利な道具にあふれる現代において、三現主義ではやはり足りない。だから私は、「原理」「原則」を加えた「五現(原)主義」を、広く深く伝えていく場が必要だと決意し、NOVARE Academyを立ち上げました。

実際に「見て」「触って」「やってみる」をキーワードにした研修コンテンツに対して、研修生からは共感の声が返ってきているという。
浜田:研修後のアンケートを見ると、やはり五現(原)主義について書いてくださる方が多いですね。いつも耳にしていた三現主義に、新しい視点が加わり、腹落ちしたという声が印象的です。
また、このNOVAREという場所そのものが、納得感につながっているのかもしれません。旧渋沢邸のような伝統技術と最新技術が同居し、少しずつ進歩を遂げてきた技術の温故創新を感じられる、稀有な場所ですから。
3.
未知への挑戦
「超高層アカデミー」

現在、東京駅日本橋口前に建設中の超々高層ビル「Torch Tower(トーチタワー)」。完成すれば日本一の高さ(約385m)となる、東京の新たなシンボルタワーだ。
この建設に際し、新規配属従業員への事前教育として、現場の建設所長と共創して立ち上がったのが「超高層アカデミー」である。
浜田:超々高層ビルとはどんなものなのか。全体を俯瞰できる研修から始めました。
Torch Towerのような巨大な現場では、自分の担当範囲に集中するあまり、建物全体を見る視点を保つことが難しくなります。
担当外の業務を見る機会がないまま工事が終わってしまうのは、とてももったいない。
日本一の現場にいるからこそ、超々高層ビルのガイドラインを理解した状態で現場に入れば、成長のスピードも変わってくるはずです。
4.
建てるだけでは終わらない。
「ゼネコンの使命」を果たす

清水建設への従業員を対象に広がってきたNOVARE Academyの輪だが、今後は社内にとどまらず、社外へと対象を広げていく。一見すると、技術ノウハウの流出とも取れるが、なぜこのような決断に至ったのか?
浜田:それが、ゼネコンの「使命」だと考えているからです。単に建物をつくるだけではない、社会全体を支えることが我々の使命です。
私は10年ほど前から日本建築士会連合会の活動に参加し、他企業の方々とも活動してきました。会社ごとに考え方が違い、自分の世界の狭さを痛感。「もっと広い視野と視点で社会に貢献したい」という思いが募り、その志の前には“自社だけに知識を留めておく”というような利己的な精神は吹き飛んでしまいました。
会社や業界を越境し、共創を生む場所として、NOVARE Academyが息づいていくことを願っています。
5.
ものづくりとは
「原点に立ち返る」こと

浜田塾長にとって、ものづくりとは?
浜田:ものづくりとは、「原点に立ち返って考える」ことです。
これまでお伝えしたように、原理・原則を真に理解していなければ、価値あるものづくりはできません。そしてそんなものづくりを通して人々の喜びをつくることこそ、清水建設が背負う使命です。
日々の研修を通してたくさんの人々に出会い、私自身も磨かれ続けています。不変の原点を伝え続けることで、未来はきっと変わる。たとえ私が引退しても、NOVARE Academyが建設業界や社会にとっての貴重なアーカイブとなるように、力の限り歩み続けます。

浜田 晃司(はまだ・こうじ)
一級建築士/1級建築施工管理技士。NOVARE Academy塾長。
1980年清水建設入社。以降、30近くの現場において係員、所長を勤めた後、新潟営業所長、生産技術本部副本部長を経て清水建設ものづくり研修センター校長に就任。2023年、NOVARE Academy開設に伴い現職。後進の技術力向上、技術者としての倫理意識向上などの指導に当たっている。
NOVARE Academy
研修受講生の声
始まりは、“一本の線”だった。
現場から拓く、終わりなき探求
今まさに建設中の超々高層ビル「Torch Tower(トーチタワー)」に挑む、蒔苗(まかなえ)。
実際に「超高層アカデミー」を受講した彼女に、現場で話を聞いた。

「 現場を知りたい」そんな思いで、施工管理者を志す
私が施工管理者を目指すきっかけになったのは、大学研究室で図面に引いた、たった一本の線でした。
設計を志していた当時、清水建設の従業員を招いて設計を学ぶゼミに参加した時のことです。私が何気なく引いた壁の線を成立させるため、精緻な足場図面が書き足されていくのを目の当たりにし、「この一本の線を成り立たせるのはこんなに大変なのか。なんて面白そうな世界なんだ」と衝撃を受けたのが始まりでした。
現場を知りたい。施工管理者になりたい。そんな思いで清水建設に入社しましたが、当時は女性の施工管理者がとても珍しく、周囲にもよく驚かれました。しかし実際働き出してからは、性別や年齢は関係なく、何より「技術力」を見られているという感覚がありました。技術・知識があれば、素晴らしい職人さんたちに信頼され、どんどん会話が進んでいく。そして、どの現場に行っても私を上回るプロフェッショナルな方々がいて、ずっと目指すべき目標が絶えない。そんな環境が楽しく、最高に刺激的です。

巨大な現場に挑むため、NOVARE Academyで原点に立ち返る
NOVARE Academyでの「超高層アカデミー」研修は、そんな刺激を現場以外で感じることのできる貴重な経験でした。現在私は鉄骨に関わる工務を担当していますが、研修の中では特殊な杭の図面や実物を目にし、一歩踏み込んだ技術を学ぶことができました。
研修当時は3人目の産休・育休を経て、Torch Towerに配属が決まった直後。Torch Towerは社内でも有名なプロジェクトだったので、身が引き締まる思いでした。これほど巨大な現場になると、自分の担当領域外を把握することが困難になるのですが、研修ではプロジェクトの全体像を把握でき、すごくモチベーションが上がったことを覚えています。
また、受講後の懇親会も有難い時間でした。講師陣は多種多様な現場を経験してきた大先輩。そして受講者の方々も世代がバラバラで、経験してきた現場も様々。各々のノウハウや経験値を持って語り合うことで自分自身の振り返りにもなりましたし、とてもいい時間を過ごさせてもらいました。またぜひ参加したいと思います。
一流を追求することが、私の喜び
私は入社以来ずっと「一流の技術者」になりたい、と思い続けてきました。一流を追求することが私の喜びであり、この道に決して終わりはありません。ですから、私にとってのものづくりとは、「探究」です。
この原点を忘れず、これからも施工管理という仕事を通して、人生をかけた探究を続けていきたいと思います。
蒔苗 沢子(まかなえ・さわこ)
2014年清水建設入社。施工管理者として複数の現場を経験。
2025年より常盤橋プロジェクト(Torch Tower)建設所の鉄骨に関わる工務を担当。