木質建築都市構想

WOOD COMPACT CITY -防災力を共有することで促進される木造都市-

本提案は「2024年度日本建築学会技術部門設計競技:木材を活用した建築物・都市における革新的な火災安全技術とデザイン」で最優秀賞を受賞した提案です。木材を活用した建築物・都市における革新的な火災安全技術とデザインが求められました。私たちは「防災コモンズ」と呼ばれるコアとデッキを設け、防災力をハード・ソフトの面から共有することで、木材利用のハードルを下げ、それにより都市の木質化が促進されるシステムを提案しました。

提案者:進藤正人、森翔太、木村愼太朗、 木村友香、宮倉周平、山下平祐、 稲井田直哉、大栁聡、長澤怜

(注) この提案には建築基準法や都市計画法の解釈を超えた範囲の提案が含まれています。

防災コモンズによる木造建築の防耐火規制の合理化

本提案は木造建築を防災コモンズで挟みこむ構成になっています。防災コモンズは防災コアと防災デッキで成り立っています。防災コアは隣接する木造建築が備えるべき防災設備や耐火性能の肩代わりする機能があり、防災デッキは避難経路にもなる仮想地盤面として扱われます。防災コモンズによって挟まれた木造建築は、耐火建築とすべき規制が合理化された「耐火緩和建物」となり、準耐火建築として計画が可能になります。

迅速な水平避難 -延焼防止機能と防災設備を集約した防災コア-

火災時は耐火緩和建物から防災コアへ、各階から素早く水平避難ができます。防災コアは延焼防止機能のある耐火建築です。本来は隣接する耐火緩和建物が備えていた避難・消火設備を集約配置しています。これらにより隣接する耐火緩和建物は、1時間準耐火とすることが可能と考えています。上図の耐火緩和建物の用途とプランは一例になります。

安全な垂直・隣棟避難 -防災デッキを活用した避難・消防計画-

防災コアではX階段を用いて、地上階や防災デッキ階まで安全に避難ができます。非常用エレベーターや、スプリンクラー用水槽も備えており、耐火緩和建物が法的にスプリンクラーの要求がない規模であっても、防災コアからスプリンクラーの供給を受けることができます。防災コア同士を繋いでいる防災デッキを通じて、他の防災コアからも地上階まで垂直避難ができます。防災デッキは消防隊の待機や活動スペースにもなり、送水口も備えています。消防隊がホースを持って移動する距離が短くなり、救助・消火活動の時間短縮が行えます。

防災コモンズの建設スキーム -間接的に木材需要を喚起する循環システム-

民間事業者は木造で建物を建てることを条件に、敷地の一部を行政に提供し、行政が公共事業として防災コモンズの建設を行う仕組みを提案しました。「防災コモンズ」によって、間接的に木材需要が喚起され、行政・民間事業者・木材関連業界の経済循環が起こります。耐火緩和建物では防耐火性能の合理化により、国内各地で調達可能な、無耐火の木材の活用もしやすくなり、県産材や流域材といったスケールでの、木材の地産地消にも繋がっていきます。

防災コモンズによって生まれる小さな共同体 -日常的な交流と防災意識-

防災コモンズの管理は、隣接する2つの建物の「所有・利用者」と「行政」との3者で構成される小さな単位で行われます。日常動線と避難動線が一致しているため、日常清掃や利用を通した日常的な管理が可能になります。また階段やコミュニケーションスペースでは、都市生活で普段出会うことのなかった隣接建物の利用者同士が、顔を合わせるような機会が生まれ、都市コミュニティの形成にも寄与します。日常管理では及ばない範囲の管理は行政によって行われます。防災コモンズの消火・防災設備は見える化がされており、普段から目に見えることで防災意識の醸成に寄与します。

耐火緩和建物で可能になる構造形式の例

防災コアには隣接する耐火緩和建物の水平荷重を負担させることが可能です。水平荷重の一部、または全部を防災コアに負担させることで、従来は実現が難しかった架構形式の建物を作ることもできます。耐火性能は1時間準耐火を満たせばよいので、燃え代設計によって無耐火の木材を表しで使うことが可能になります。

火災発生時の避難・消火タイムラインフロー

耐火緩和建物を1時間準耐火とみなして問題がないか検証をしています。スプリンクラーや放水ロボットによる継続散水や防災デッキへの避難、消防活動の拠点として利用、非常用エレベーターの使用により、放水開始までの時間が短縮されます。検証法に基づく計算により、耐火緩和建物は1時間準耐火としても問題ないという結果となりました。

これからの都市の木造・木質化に向けて

防災コモンズは都市の隙間や未利用地などの狭い敷地に対しても適用可能なため、様々な既存都市への展開が可能です。平面的に既存建物と共存し、徐々に都市全体に波及させることや、伝統建築など地域の文化財を断面的に避けて展開することもできます。

高齢化や空洞化が進む、これからの地方都市において、高層化するのではなく、このように地上に近いレベルの中層建物を高密化し、コンパクトに暮らす方法があるのではないでしょうか。

本構想の提案・技術の一部は特許出願中です