歴史的建造物

落成から100年、渋沢栄一翁が愛した名建築「晩香廬(ばんこうろ)」

歴史的建造物

歴史的建造物落成から100年、渋沢栄一翁が愛した名建築
「晩香廬(ばんこうろ)」

都内屈指の桜の名所として知られる北区西ヶ原、飛鳥山公園。その深い木立を臨む一角に、赤い瓦屋根の小亭がひっそりと佇んでいます。この建物は、1917(大正6)年に清水組(現・清水建設)が、渋沢栄一翁の喜寿のお祝いと長年の恩顧に対する感謝を込めて贈ったものです。
「晩香廬(ばんこうろ)」と名付けられたこの建物は、国の重要文化財に指定され、落成から100年を迎えてなお、訪れる人々を魅了し続けています。

晩香廬の談話室
晩香廬の談話室。渋沢翁はここで国内外の賓客たちと語り合った(写真提供:渋沢史料館)

長年にわたる渋沢翁との親交

日本資本主義の父と讃えられる渋沢栄一翁と当社との出会いは、明治初期、二代店主 清水喜助の時代にさかのぼります。渋沢翁が設立に尽力し、初代総監役を務めた第一国立銀行の設計と施工を手掛けたのが二代喜助でした。高い技術と進取の精神によって日本初の銀行建築を見事に完成させた二代喜助に、渋沢翁は絶大な信頼を寄せることとなります。

渋沢栄一(1840〜1931年)。
渋沢栄一(1840〜1931年)。
第一国立銀行の総監役、頭取をはじめ数多くの近代的企業の創立と発展に尽力した
(写真所蔵:国立国会図書館)
二代店主・清水喜助(1815〜1881年)。
二代店主・清水喜助(1815〜1881年)。
日本初の銀行建築を完成させるなど、当社の基礎を築いた
1872(明治5)年に竣工した第一国立銀行
1872(明治5)年に竣工した第一国立銀行

1887(明治20)年、三代店主 清水満之助の急逝により、当社は創業以来最大の経営危機を迎えます。それを支えたのが渋沢翁でした。相談役として経営理念、経営方針を授け、受注の支援を行い、当社を近代的な建設会社へと育て上げたのです。
渋沢翁は1916(大正5)年、77歳で実業界からの引退を決め、約30年間務めた当社相談役を辞しました。渋沢翁への感謝を込めて、四代当主 清水満之助は技術の粋を尽くした小亭をつくり、家具や調度品とともに贈ることにしました。 

建築と工芸が調和した空間

設計を任されたのは、清水組五代技師長の田辺淳吉。建築だけでなく、芸術や工芸にも精通していた田辺は、建築と工芸が調和した居心地の良い空間を構想します。自らスケッチを描き、使用する材料やその仕上げなど、室内の隅々まで心を配りました

清水組五代技師長・田辺淳吉
清水組五代技師長・田辺淳吉
異なる色に焼きあげたタイルを組みあわせた趣深い外観
異なる色に焼きあげたタイルを組みあわせた趣深い外観

一見すると洋風建築に見える晩香廬は、日本の伝統的な数寄屋造り要素を取り入れた和洋折衷の建物となっています。
外壁は、壁土に鉄分を加えて意図的にサビを浮き出させた西京錆壁塗り。角には異なる色に焼いた煉瓦タイルを貼り込み、変化を付けています。

談話室の暖炉上部中央には、渋沢栄一翁の喜寿を祝い、「壽」の文字を表したタイル飾りが設置されています

談話室の暖炉
「壽」の文字を表したタイル飾り

談話室の暖炉と「壽」の文字を表したタイル飾り

室内の装飾と家具は、当時、清水組設計部に在籍し、後に家具デザイナーとして活躍する森谷延雄が手掛けました。
談話室の照明には、吉祥文様の鶴や竜、雲、松、唐草の精緻な細工がなされていますが、この図案も森谷が手掛けたものと考えられています。

談話室に現存する楢材の長椅子
談話室に現存する楢材の長椅子
談話室の照明
談話室の照明

さらに、調度品は、当時新進気鋭だった11名の美術工芸家に制作を依頼。陶製の花瓶、銅製の灰皿など、美しい工芸品の数々が室内を彩りました。

晩香廬のためにつくられた工芸品の一部(写真提供:渋沢史料館)
晩香廬のためにつくられた工芸品の一部(写真提供:渋沢史料館)

清水組が心を込めて建設し贈った小亭を、渋沢翁はたいへん気に入り、自作の漢詩の一節「菊花晩節香」にちなみ、「晩香廬」と名付けました。
渋沢翁は晩年を通じてこの場所をレセプションルームとして愛用し、国内外の賓客たちをもてなしました。

落成時(1917年)の晩香廬
保存・修理工事後(1998年)の晩香廬

落成時(1917年)と保存・修理工事後(1998年)の晩香廬

晩香廬を未来へつなぐために

晩香廬は、渋沢翁と当社を結ぶ、大切で意義深い建物です。大正期の名建築とうたわれ、多くの人に愛されてきたこの建物を後世に伝えるため、
1999年には保存・修理工事を実施。創建時の姿に復原された晩香廬は、2005年に国の重要文化財に指定されました。
100年の時を経てもなお色あせないこの輝きを、シミズは今後も大切に守り続けていきます。

※ 出典記載のないカラーの晩香廬の写真は「晩香廬保存修理工事報告書」に掲載されているもの

晩香廬は、渋沢史料館の施設として一般公開されています。ぜひ足をお運びください。

公開時間: 渋沢史料館開館日の10:00~15:45

休 館 日: 毎週月曜日(祝日・振替休日の場合はその翌日)、12月28日~1月4日

記載している情報は、2017年12月6日現在のものです。
ご覧になった時点で内容が変更になっている可能性がございますので、あらかじめご了承ください。