vol69
38/49

産科クリニックとしては初めて19床を2つのユニットで個別に運営する計画となっている。ここでは、医師ではなく、生活を支える助産師を中心に据えたサービスが提供される。これを受け、狭小敷地の縦長な形態を活かし吹き抜けを抱いた小さなユニットを2つ構成した。各ユニットの居室には和室と洋室のバリエーションを持たせ、畳のリビングを配置するなど家庭的で心休まる雰囲気を演出した。小規模な単位での運営は、スタッフの目が行き届きやすく手厚いケアが可能となる上、患者・家族・助産師が密につながりやすい雰囲気を生み出す狙いがある。そこでの絆は、核家族化が進んだ都心において、多くの場合は働きながらの出産と育児に不安を抱えている妊婦にとって強い味方になるはずである。小さな助産院が2つあるイメージ聖路加産科クリニックST.LUKE’s BIRTH CLINIC新しい都心型の産科クリニックモデルである。都心一等地に、身近で家庭的な助産院の長所をどうインストールするかが課題であった。自室での出産プログラムに小さなユニット構成を組み合わせることで、安心感と親密感が生まれる環境を計画した。戦後、病院での分娩を志向するGHQの改革で、1950年代には95%を占めていた家庭でのお産は急速に施設に移行し、1970年代にはほとんどが施設出産となった。以後長らく分娩室での出産が主流だったが、1990年代にはニーズの多様化が進み、聖路加国際病院を始めとする先進的な病院で、妊婦の負担軽減と快適性を重視したLDRシステム(Labor-Delivery-Recovery:陣痛分娩回復室)が導入された。今回の計画では「最もリラックスできるところで産める」環境の実現を目指した。全室を退院まで過ごせるLDRとし、分娩ベッドの代わりに自分が楽な格好で産めるよう分娩を助ける仕掛けを各部屋に備えた。家族が同じ部屋で過ごす事で、子育ての第一歩に積極的に関わることも想定している。2010年5月に竣工するこのクリニックがモデルとなって、深刻な出産事情を抱える日本に、また産みたいと思える空間がひとつでも増えることを期待している。森 佐絵最もリラックスできるところで産むプログラム陣痛室病室分娩室移動移動分娩室で産む1970年代1990年代今回提案手術室のような分娩室LDRLaborDeliveryRecovery-Room陣痛/分娩/回復室病室移動LDRで産む分娩台に早変わりするベッドLDRRLabor-Delivery-RecoveryRoom陣痛/分娩/回復/居室最もリラックスできるところで産む自分の部屋で産むLDR-RLabor-Delivery-Recovery-Room多くの病院で見られるプログラム出産の進行に伴い、妊婦が部屋を移動するベッドが分娩台に早変わりし、陣痛、分娩、出産後数時間の回復まで過ごし、その後自分の病室に戻る自分が楽な格好で産み、退院まで同じ部屋で過ごせる産み綱よつんばい肋木水中での陣痛緩和各部屋に設置した産む仕掛け36vol.6910床のユニット 9床のユニット

元のページ 

page 38

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です