2014.09.18
清水建設(株)<社長 宮本洋一>はこのほど、ダム工事等に用いる夜間工事照明が建設地周辺の生態系に与える影響を定量的にシミュレーションできる「夜間工事照明影響評価システム」を開発しました。本システムは、生態系の食物連鎖に着目し、昆虫類が照明に誘引され死滅することで失われる餌資源のカロリー量から、食物連鎖の中位・上位生物に与える影響の程度を定量的に算出するツールです。本システムにより、生態系に配慮した上で、費用対効果上、最適な夜間照明計画の立案が可能となりました。
自然豊かな山間部で行われるダムやトンネル等の土木工事では、建設地周辺の自然環境や生態系の保全に配慮した施工が求められます。特に、建設地付近にクマタカ等の猛禽類の生息が確認された場合には、環境省の指針「猛禽類保護の進め方」に沿ってさまざまな対策を実施します。その一つが、夜間工事照明に集まる昆虫類を減少させるための対策です。蛾や甲虫等の昆虫類が照明に誘引され死滅することで、昆虫類を捕食するカエルやトカゲ等の餌資源が減少し、これらを捕食する鳥類や哺乳類、最終的には、食物連鎖の最上位生物である猛禽類にも影響を与えるものと考えられています。
当社は以前から、現場で通常使用される水銀灯の代わりに、高価なものの誘虫性の低いナトリウム灯を夜間照明に採用する等、誘虫量の低減対策を実施してきました。しかし、その効果を定量的に把握することができなかったことから、当社のダム等の工事現場で、照明の種類別(水銀灯、ナトリウム灯、LED灯)に誘虫量を実測し、公開されている誘虫に関する各種データ、照明種類別のコストデータと併せて、本システムのデータベースを構築しました。
システムに入力するデータは、現場周辺100m圏内の水田・森林・草地等の面積割合、水銀灯・ナトリウム灯・LED灯といった照明の種類・光量とそれぞれの設置台数、使用期間等です。システムは、これらのデータを基に、夜間照明に誘引される昆虫類の種類と質量を推定します。その結果から、カエル等の中位生物が摂取できなくなる餌資源のカロリー量を算出。さらに、より上位の生物の餌資源がどの程度減少するかを順に推定します。最終的に、食物連鎖の頂点に位置する猛禽類1羽が生存していくために最低限必要な摂取カロリー量を1として、失われる猛禽類の餌資源を数値で表わすとともに、対策コストも算出します。これにより、猛禽類への影響を抑えつつ、経済的な照明計画を立案することが可能になります。
当社は今後、ダム工事等の総合評価入札案件の提案書に本システムの採用を盛り込むとともに、施工に当たっては、現場の周辺環境や予算等の諸条件を鑑み、最適な照明計画を立案していく考えです。
以上
≪参 考≫
1.夜間工事照明の事例
2.食物連鎖と本システムの基本的な考え方
3.本システムの評価フロー
- 照明に集まる昆虫類の種類と量に影響を与える諸条件を入力
- 現場周辺の環境(水田、森林、草地等の面積比)
- 工事期間(夜間工事照明の実施期間)
- 設置する照明の種類・数量(水銀灯、ナトリウム灯、LED灯)
- 夜間工事照明による誘虫量を推定
- 食物連鎖を通じた上位生物(猛禽類等)への影響の程度を算定
4.本システムによるシミュレーションの事例
- <同一照度に設定した3ケースの比較シミュレーション結果>
-
- A案水銀灯100%
- B案水銀灯62%、ナトリウム灯34%、LED灯4%
- C案ナトリウム灯58%、LED灯42%
指標が1未満であれば生息環境を大きく損なわないと評価
ニュースリリースに記載している情報は、発表日現在のものです。ご覧になった時点で内容が変更になっている可能性がございますので、あらかじめご了承ください。ご不明な場合は、お問い合わせください。